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(1)ノーチャイム 一人一人に目配りを
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震災で経済的に苦しくなった家庭に配慮し、学校指定のかばんと靴がない渚中。伝統は今も続く=神戸市中央区脇浜海岸通2(撮影・峰大二郎)
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震災で経済的に苦しくなった家庭に配慮し、学校指定のかばんと靴がない渚中。伝統は今も続く=神戸市中央区脇浜海岸通2(撮影・峰大二郎)

震災で経済的に苦しくなった家庭に配慮し、学校指定のかばんと靴がない渚中。伝統は今も続く=神戸市中央区脇浜海岸通2(撮影・峰大二郎)

震災で経済的に苦しくなった家庭に配慮し、学校指定のかばんと靴がない渚中。伝統は今も続く=神戸市中央区脇浜海岸通2(撮影・峰大二郎)

 午前8時40分。何の合図もなく教師が教室に入ってくると、生徒が席につき、授業が始まった。どの学校にもあるチャイムの音が、神戸市立渚(なぎさ)中学校では鳴らない。

 同校は阪神・淡路大震災から3年後の1998年、復興公営住宅などが並ぶ東部新都心・HAT神戸に開校した。24人の生徒は全員が被災者。肉親を亡くした子や、自宅が全壊したり、全焼した子もいた。激しい揺れを経験したためか、突然音が鳴ると、身をすくめてしまう。敏感な生徒に配慮し、チャイムなしの学校生活が始まった。

 それから11年たっても同校は「ノーチャイム」を続ける。担任する学級を持たず、子どもの心に目を向ける「心のケア担当教員」(旧・教育復興担当教員)が勤務する4校のうちの1校だ。

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 開校時から同校で勤務し、途中3年間、教育復興担当教員を務めた井戸川京助さん(現・市教委指導主事)は「ここは震災後に新しくできた街。でも皆が同じような体験をし、不思議な連帯感があった」と振り返る。

 教員らは「生徒一人一人に優しく、手厚い学校をつくろう」と誓った。被災して経済的に苦しい家庭に配慮し、かばんや靴は指定しなかった。学期に2回ずつ「カウンセリング週間」を設け、不安や悩みを聞いてきた。

 それでも、感情を抑えられなかったり、友人をつくれなかったりする生徒もいた。「話を聞くと、震災で仕事や家を失った家庭が少なくなかった」と井戸川さん。多忙で子どもと向き合う時間を取れない保護者もいた。問題が起きるたび、復興担当と学級担任らが集まり、話し合った。

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 震災から10年近くなると、HAT神戸にも分譲マンションが立ち並び、震災を知らない生徒が増え始める。被災した家庭の子でも、直接の記憶は年々薄らいでいく。

 一昨年、震災と子どもの関係などを保護者に聞くアンケートを行った。すると「物音や揺れに極端に反応する」という生徒がまだいることが分かった。地震を経験していなくても、復興時の混乱の中で傷ついている様子が見てとれた。

 桧垣真章教頭は「震災から10年以上がたっても心の問題は簡単に解決しない。もっと時間が必要です」と強調する。

 今月、同校体育館に生徒らが並び、人形を使って心肺蘇生法を実体験した。生徒はこうした講習会で地震の話に耳を傾ける。そして、ふだんの学校生活の中でチャイムが鳴らない理由を知る。

 「震災をきっかけに誕生した学校として、命の尊さを学ぶ機会を大事にしたい」と、現在の心のケア担当教員。一人一人に優しい学校をつくる取り組みは、今も続いている。(坂口紘美)

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 阪神・淡路大震災後、被災地の小中学校で、子どもの心に寄り添ってきた「心のケア担当教員」の配置が本年度で終了する。15年間で延べ1694人。「教育復興担当教員」として始まったその歩みを振り返る。

2009/11/29
 

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