阪神・淡路大震災後、被災地の小中学校で児童、生徒の心理的なケアを専従で担ってきた教育復興担当教員(復興担)の配置が、本年度で終わる。子どもの心を見つめることが主な“仕事”だった復興担は、学校に、社会に何を残したのだろう。震災後、子どもの心の回復支援に携わり、スクールカウンセラーなどの立場で復興担と接してきた兵庫教育大教授の冨永良喜さん(臨床心理学)と甲南大教授の羽下大信さん(コミュニティー心理学)に聞いた。
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熱心な復興担がいた小学校では、(1月17日の周辺に開く)メモリアル行事が充実していた。例えば、祖母を亡くした体験を同級生の前で話した子がいたが、それまでに復興担が何度もその子や家族と話し合った過程があってこそ、実現したことだ。
体験を封印し続けるのではなく、こうした形で向き合うことは、心の回復につながる。本人だけでなく同級生も、つらいことを頑張って言葉にした友達の姿は心に響いただろう。
復興担は最大時には200人を超えた。それだけ多数に、心のケアを理由に税金が使われた意義は大きい。果たした役割が評価されたから、2004年の新潟県中越地震の被災地にも復興担が配置された。佐用町など兵庫県西、北部豪雨の被災地にも、ぜひ導入してほしい。
兵庫県教委が、心理面への配慮が必要な児童生徒数の調査を続けたことも評価できる。要因の変化も記録しており、国際的にも貴重なデータだ。今思えば、個別の子どもの変化を追い続けて記録を残しておけば-という反省はあるが。
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一方、子ども、教員共に「心のケア」について学ぶ体制を十分につくれず、現場の熱意に任せる格好になった点は課題として残る。大きな出来事の後、心と体に変化が起きるのは自然だと知ることは、回復の助けになる。私たちはこの教訓を中国・四川大地震の被災地に伝え、佐用町でも実践している。
規範意識を学習する道徳の授業とは別に、心のケアについて学ぶ授業を小学校から設けるべきだ。英国はそうした試みを続けたことで暴力やいじめが減り、11年までに全小学校で授業を展開するという。
今の学校には、虐待を受けたり、事件・事故に巻き込まれたりして深く傷つき、教員の個別的なかかわりを必要とする子どもはとても多い。復興担という画期的な実践を、そうした子への支援体制として引き継いでいくべきだ。
そのためには、情熱だけでなく知識が不可欠だ。社会ではまだまだ、心のケアは「保護する、甘やかす」ことと誤解されている。教員が臨床心理について勉強できる場や、トレーニングを受けた教員が活躍できる環境を整える必要がある。(聞き手・新開真理)
略歴 とみなが・よしき 1952年生まれ。兵庫県心の教育総合センター長を務め、中国・四川大地震や兵庫県西、北部豪雨の被災地などで子どもの心のケアに当たる。
<教育復興担当教員>
阪神・淡路大震災直後の1995年4月から、国の特例措置として通常の教員定数に上乗せし被災地の小中学校に配置。担任を持たず、児童らの心理的なケアや防災教育に専従で当たる。2005年度、「大震災に係る心のケア担当教員」に名称を変更した。
2009/12/3