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(6)グループ化 メガバンク時代の選択
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再編加速でさくら銀急接近

 一九九八年五月十五日、神戸商工会議所。阪神銀行は、みどり銀行を吸収合併すると発表した。

 「再度、不良債権を切り取り、整理することを考えた…」。再出発からわずか二年四カ月後の結末に、みどり銀頭取米田准三は淡々と話した。

 一方、阪神銀頭取の矢野恵一朗の言葉は熱かった。「神戸に健全な銀行を作る橋渡しをしたい。当局の援助があるなら夢が実現できる」

 「山一ショック」から半年。金融安定化のために公的資金を活用したみどり銀救済だった。

 預金保険機構はみどり銀の不良資産を約二千六百億円で買い取り、損失の穴埋め分として約七千九百億円を贈与。一兆円を超す巨額の公的資金。兵銀時代の負の遺産は一掃されることになる。

 通常、債務超過の銀行株は紙切れになる。が、みどり銀は公的資金で債務超過を解消し、資本金は温存された。だが、これに「待った」がかかる。「誰にも責任がないとはどういうことか」。かみついたのは公的資金を強腕で導入した元官房長官・梶山静六。

 みどり銀の株主には、なけなしの金を出した被災企業も少なくない。神戸経済界は猛反発したが、みどり銀発足後の不良債権分として資本金二百億円を損失処理に使い、米田ら役員が退陣した。

 「県民銀行」への一歩を踏み出した矢野。しかし、金融危機のうねりは収まっていない。

 九八年六月には金融監督庁が発足。金融行政の間げきを狙うように、市場が長銀、日債銀を狙って不穏な動きを始める。

 七月には参院選で自民党惨敗。破たん処理を迅速化する金融再生法案をめぐる金融国会は、首相・小渕恵三の「野党案丸飲み」で成立。長銀、日債銀は国有化された。

 さらに、公的資金で銀行資本を増強する「金融機能早期健全化法」が成立。新設された金融再生委員会は、公的資金投入の見返りに銀行に大胆なリストラを求めていく。

 答えが九九年からの再編ラッシュだった。日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行がみずほフィナンシャルグループを結成。さくら銀は住友銀と合併合意。東京三菱銀行と三菱信託銀行が共同持株会社設立…。二十の大手行は四大メガバンクに収れんされていく。

 東京・九段。さくら銀本店。「兵庫の今後」を会長の高崎正弘は考えていた。脳裏にはマーケットにほんろうされた金融危機の怖さがある。

 「さくらがガタガタになると兵庫も神戸もない。名は変わっても、さくらを次のステップにもっていくことが地元への恩返しだ」。視線は新行名を決めた「みなと銀」へ向いた。

 みどり銀とみなと銀・。それぞれの頭取を務めた米田准三、矢野恵一朗は、いずれも神戸銀出身。さくら銀幹部も務めた。だが、さくら銀は一貫して距離を置き続けた。

 阪神、みどりの合併趣旨書にも一端がうかがえる。「新銀行は県民銀行として、さくら銀とは新しい関係を構築…今後はさくら銀行からの新たな人的、経済的支援は必要としない」

 だが、みなと銀の経営が軌道に乗り出したことに加え、住銀との合併合意がその距離を縮めた。

 二〇〇〇年六月九日。東京の日銀本店で並んで会見したさくら銀頭取の岡田明重と矢野は晴れやかだった。さくら銀が発表したみなと銀株の公開買い付け。売り圧力にさらされてきたみなと銀株を、さくらが取得すれば株価は安定する。

 さくら銀にとっても、傘下のみなと銀を通じて兵庫の取引関係を維持し、店舗再編が進められる。岡田は胸を張った。「これが最善のシナリオだ」(敬称略)

メモ

転換期迎えた金融行政

1998年
 2月 金融システム安定化法等が成立し、総額30兆円の公的資金枠ができる
 4月 自己資本の低い金融機関に経営改善を求める「早期是正措置」の導入
    「新日銀法」施行
 6月 金融ビッグバン関連法が成立
    金融監督庁が発足
10月 金融再生法、金融早期健全化法成立(60兆円の公的資金枠)
12月 金融再生委員会が発足
1999年
 4月 不良債権を回収する整理回収機構発足
 7月 金融検査マニュアルを導入
2000年
 7月 金融監督庁が金融庁に
2002年
 4月 定期預金などのペイオフ解禁

メモ

金融大再編

 1990年代初めにさくら銀、あさひ銀、東京三菱銀が誕生。金融システム不安が峠を越えた99年夏以降、勝ち残りをめざして大手銀行同士の経営統合・合併が加速した。みずほ、三井住友、三菱東京、UFJの4大メガバンクに収れん。これに「りそな」が加わり、5大グループになった。

2003/1/22
 

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