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(8)第2創業 鍵は地域への資金循環
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企業と銀行 新たな関係へ

 居並ぶ支店長を前に、西村忠〓は熱く語っていた。

 二〇〇二年六月三十日。みなと銀行本店。頭取の矢野恵一朗からバトンを受けて四日目。初の支店長会議だった。

 「規模の拡大だけで立派な銀行になったと思ってはいけない。今は財務基盤を強固にする時。第二地銀の原点に返ろう」

 神戸で生まれ育ち、神戸銀行に入行。さくら銀行常務時代に震災に遭い、店舗再建の陣頭指揮を執った。半年前にみなと銀の顧問に就き、支店を回る中で新しい銀行像を練り上げてきた。

 地域金融機関としてどうあるべきか。西村は「融資は顔の見える先に。これが大原則」と言い切る。「どれだけ経営者を知っているか、会社に精通しているか。判断能力を磨くことが地域産業の育成につながる。新しく生まれ変わるつもりで顧客の懐に飛び込もう」

 目指す理念として「第二の創業」を掲げた。

 「被災地は第二創業期を迎えている」。西村と同じ言葉を訴え続けてきた経営者がいる。兵庫県中小企業家同友会代表理事、田中信吾。自身も震災の辛酸をなめてきた。

 「この八年、金融行政が揺らぐたびに銀行の態度が変わった。貸し渋り、貸しはがし。そして今、金利の引き上げが中小企業を苦しめている」

 〇二年九月末、金融行政は大きく転回する。竹中平蔵・経済財政担当相が金融相を兼務、金融再生プログラムは、不良債権処理の加速など強硬路線を強めていく。

 「金融庁の金融検査マニュアルは中小企業向け金融を不安定にしている」「金融行政は健全性のみに目が向き、金融機関が果たすべき公共性を考慮していない」

 十一月十三日、田中は会見し、同友会が全国で展開する「金融アセスメント法」制定への取り組みを兵庫でも始めると宣言した。資金供給を通じた企業育成など、金融機関の地元貢献度を評価する仕組みの導入を目指す運動は、全国五百を超える地方議会で意見書などが採択されている。

 「中小企業は下請けからの脱皮を目指して頑張っている。生まれ変われるかどうかは、地域金融機関にかかっている」。この取り組みは、「第二創業期」の中小企業と金融機関との新たな関係の模索ともとれる。

 「第二創業ファンド」。みなと銀頭取の西村は自らの思いを新商品に具体化した。多角化や新技術の導入などで、創業期をしのぐ成長が見込める中小企業を支援する。無担保で五年。融資先は三カ月で十社を数えた。

 さらに「財務提案グループ」をつくり、企業の経営向上にかかわる。三井住友銀行からM&A(企業の合併・買収)のノウハウも導入、後継者難の中小企業などの経営資源を生かす再編は六件と実績を上げ始めた。

 「地元銀行で働くことで地域に貢献する。仕事に誇りが持てる。そういう姿に早くなりたい」。阪神・淡路大震災から八年。金融危機、業界再編を経て一本の旗が定まった。

 かつて神戸に本店を置き地域経済を支えた神戸銀行。「第一創業期」にあたる当時を、頭取の岡崎忠は銀行二十年史にこう記している。

 「未来に抱負をもつものは常に過去を省察し現在を律してゆかねばならない…将来への貴重な暗示と新たなる勇気を得ることは極めて必要なことと信ずる」

 神戸銀は躍進を遂げた五三年、本店新館をしゅん工。その際、本店営業部を飾る大作を神戸出身の画家、小磯良平に依頼した。

 それが三井住友銀行神戸本部に掛かる「働く人びと」。絵は半世紀も前から、「被災地が生んだ銀行」の理念を暗示し続けていたのかもしれない。(敬称略)

(注)〓は「ネ」の右に「喜」

メモ

兵庫の金融経済の動き

1927年 金融恐慌で鈴木商店破たん
      日本銀行神戸支店開設
1936年 神戸銀行設立
1965年 山陽特殊製鋼倒産
1973年 太陽神戸銀行発足
1989年 普銀転換で兵庫銀行、阪神銀行誕生
1990年 太陽神戸三井銀行(さくら銀行)発足
1995年 阪神・淡路大震災
      兵庫銀行破たん
1996年 みどり銀行開業
1999年 阪神、みどり銀が合併し、みなと銀開業
      北兵庫信用組合破たん
2000年 朝銀近畿信用組合破たん
2001年 三井住友銀行開業
      関西西宮信金破たん
2002年 神栄信用金庫破たん

メモ

金融アセスメント

 金融機関を「地域への円滑な資金供給」「利用者の利便性」などの観点から評価・公開し、金融機関の選択を利用者の判断にゆだねる仕組み。90年代に米国の中小企業を支えた「地域再投資法」をモデルとしている。中小企業家同友会が全国で立法に向けた取り組みを始めている。

2003/1/24
 

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