新型コロナウイルス対策で、約2カ月に及ぶロックダウン(都市封鎖)が、ようやく解かれた中国上海市。街はにぎわいを取り戻し、市民たちは歓喜の声を上げました。神戸新聞NEXTで「上海発モノクロフォトコラム」を連載中の金鋭さんも解除の瞬間を会員制交流サイト(SNS)で生配信し、画面の向こうの「友だち」たちと乾杯。喜びを爆発させました。とはいえ中国政府は依然として「ゼロコロナ」政策を堅持しています。何もかも自由という訳にはいかないようで、例えば、外出はできても、ショッピングモールやビルなどに入るには、PCR検査の陰性証明が必要です。市内に設けられた検査場には、長蛇の列も。待たずに、並ばずに検査を受けることはできないのか。金さんの住む地域で用いられたのは、封鎖下で食料品などを調達に威力を発揮した「団体購入」の手法でした。
【動画】ロックダウン解除初日の上海の街中
ロックダウン解除から2日目を迎えた6月2日午後。上海市内の住宅街の一角、屋外の広場に住民たち三々五々集まってきました。列の先には、防護服に身を包んだ医療関係者。口の中に綿棒を入れ、検体を採取していきます。金さんによると、ここで「出張PCR検査」を受けたのは金さんを含む30人程度。検査は有料で1人50元(約千円)だったといいます。翌日の朝には、結果が分かったそうです。
ほとんどの地域でロックダウンが解除され、外出自由となった上海ですが、公共施設やショッピングモール、オフィスビルなどの建物へ立ち入るには、72時間以内にPCR検査を受け、陰性だったとする証明書が必要です。市内には臨時の検査スタンドがいくつか設けられているそうですが、1、2時間も並ばないと検査を受けられなかったり、そもそも検査場自体が開いていなかったりなど混乱しているようです。陰性証明は丸3日間、有効ですが、「重症化リスクの高い高齢者らの中には、毎日検査を受けに訪れる人もおり、混雑に拍車を掛けている」との見方もあるとか。テレワークが浸透してきたとはいえ、職場への通勤のために、陰性証明が欠かせないという人は、検査が相当な負担となっているのも否めないでしょう。「せめて並ばずに決まった時間に検査を受けられたら」。そんな願いをかなえたのが、冒頭で紹介した出張PCR検査です。
金さんによると、手配したのは、60世帯ほどのコミュニティーで「団長」と呼ばれる30代ぐらいの女性。モノクロフォトコラムでも触れられていましたが、ロックダウン下で、食料品や日用品などの入手が困難になる中、こうした地域コミュニティーでは住民同士の情報交換のためのグループチャットを活用し、団体購入という手法で生活必需品などを調達してきました。ロックダウンが生み出した生活の知恵ともいるでしょうか。出前PCR検査もこのネットワークを使って、〝発注〟。検査の時間があらかじめ指定され、住民たちは長時間並ばずともスムーズに検査が受けられたといいます。
「封鎖下でも住民の意見をまとめながら、業者との交渉、発注、届いた商品の管理、仕分けまで担ってもらいました。今回の検査も柔軟な発想と行動力で即実現させました。頼もしいです」と金さん。
解除初日の夕方から、金さんは上海の街を久しぶりに散策したそうです。車が行き交い、買い物客であふれるスーパー、再開した飲食店を訪れたお客さんは皆笑顔でした。「封鎖前の上海と一見、何も変わらないように見えました。いつもの上海。2カ月の停滞は長かったですが、上海が持つポテンシャルはこれからも進化を見せてくれるでしょう」。ビッグデータの解析が進んでいる中国。PCR検査をめぐる混乱が落ち着くのも時間の問題かもしれません。上海のその後については後日、金さんにコラムで報告していただきましょう。
2022/6/5