粋々農業女子
【1】野菜100種、味が最優先 元農園(チアファーム)(神戸市西区)浅川元子さん(50)
午前6時前。兵庫県明石市の自宅から神戸市西区の畑まで軽トラックで約10分。農園を経営する浅川元子さん(50)の1日が始まる。
近くの農家から借りた18アールの休耕田。育てるのはナスやズッキーニ、ブロッコリー、カボチャ、大根など100種以上。土作りから苗作り、栽培、収穫を1人でこなす。通年で切れ目なく、少量多品目の野菜を作る。味を最優先する「テイスティー・ファースト」が信条だ。「施設より低コストで本来の風味を引き出せる」と、低農薬の露地栽培にこだわる。
同市東灘区で生まれ育った。父、祖父とも会社員。自身も短大を卒業して大阪のシステム会社に入った。「会社のため」と納得のいかない仕事をこなす日々に疑問を感じた。30歳を目前にしたころ「起業した方がいいのでは」との後輩の言葉に「40歳で」と決めた。
食べるのが好きなのに業務に追われ、昼食はコンビニ弁当ばかり。足りない栄養はサプリメントで補った。週末にスーパーで買った野菜は数日でしなびて使えない。「おいしい野菜を作り届けてほしいニーズがある」と農業を志した。
2009年2月、40歳でOLをやめた。兵庫県の就農講座で約1カ月、定年退職の男性たちとともに基礎を学んだ。だが作業経験もないままでは不安だった。農地のあてもなく、同年9月、神戸市西区のトマト農家の研修生になった。いびつな形やひび割れ、病害、季節によって変わる売値やコスト…。その中で品質を求める親方から「農業の現実を教わった」。
12年春、親方を通じ、今の農地を借りて独立した。名前の一字を取って「元農園」と名付け、「チアファーム」と読ませる。当初は「収穫も品質もボロボロ」で、直売所に出しても収入はわずか。手持ちは退職金の100万円。新規就農者に5年間、毎年150万円が出る国の給付金を使い、パイプとビニールで小さな作業場を建てるなど、少しずつ農園を整えた。
失敗を重ねながら、赤や緑の大根など店頭に並ばない品種を取り入れた。今は安値になりがちな直売所には出さず、レストランや、神戸・三宮の東遊園地で週末に開かれる「ファーマーズマーケット」などに野菜を届ける。
昨年、新たに農地を借り独立時から3倍の53アールに拡大した。「やっと黒字が見えてきた。料理法とか日持ちのさせ方、女性や消費者の目線で仕事ができる。何より直接、笑顔に出会える」と笑う。「重たい物は小分けにして運べばいい。女性だから農業ができないなんてことはないですよ」と声を弾ませた。
■女性の参加で収益向上 担い手高齢化で増す存在感
従事者の半分近くを女性が占める日本の農業。作業者の一員だけではなく、農業経営体を引っ張る女性の「プロ農家」も台頭しつつある。担い手の高齢化に歯止めが掛からない中で、女性の戦力は不可欠だ。
農林水産省によると、2015年の農業就業人口は全国で約210万人。このうち女性は48%を占めるという。兵庫県内でも、全体の47%に当たる約2万6822人が女性だ。
日本政策金融公庫が全国5997の農業経営体に実施した16年の調査では、女性が経営者、役員などに就く割合は53.8%。女性の経営への関与が「増えた」とした回答も17.5%あった。経営に関与する女性の有無で収益を比べたところ、関与のある方が売上高の増加幅で1.9ポイント、経常利益で71.4ポイントそれぞれ高かったという。
農水省も13年秋、女性の感性や視点で活性化を図る「農業女子プロジェクト」を始めた。当初の公募メンバーは37人だったが、直近では約759人(うち県内21人)に増加。企業と連携して開発した商品も誕生している。
県も17年度から、女性農業者向けのセミナーや交流会、先進地視察などの補助事業を実施するなど、女性農業者の拡大に力を入れる。(山路 進)