父は、レコードがすり減るほど、世界的バイオリン奏者、ハイフェッツが奏でるツィゴイネルワイゼンを聴くのが大好きだった。私にマリンバを習わせてくれたけれど本当はバイオリンが好きだったのだと思う。中学１年の時、コンクールの西日本大会で、父の希望でもあるツィゴイネルワイゼンを弾いた。典型的なステージパパであった父の特訓を受け、死ぬほど練習し、完璧な演奏が出来たと思ったのに２位。結果が受け入れられず、審査員室に「何故ですか」と談判に行くような私であった。

　評論家の重鎮である吉村一夫先生が「あんたは文句を云（い）いにくると思っていたよ」と頭を撫（な）で、「この曲はね、大人になって色（いろ）んな経験をしてから又（また）勉強しなさい。大人になったら分かるよ」と諭してくださった。おっしゃる意味が分からずプンプンしながら家に帰ったことを覚えている。