私の囲碁のライバル、中丸仁さんは全盲である。対局する時は、石の所在が触ってわかる特別な盤を使う。縦横19本の線が全て立体的になっていて、線の交わる部分に、突起がついた白石と、そうでない黒石をはめ込むもの。目を閉じて試してみたことがある。触感に頼ると指と脳が繋(つな)がらずかえって混乱するので、読む時は手を休め、脳内の盤に集中し、確認時のみ石を触る。と、やり方は理解したが記憶力がついていかず、すぐにギブアップした。
中丸さんは穏やかな人柄だが、碁を打つと豹変(ひょうへん)する。戦いまくり切りまくる。まるでジェイソンだ。先日の対局も大乱戦だった。「コウ」(石を取ったり取られたりを繰り返す戦い)を避けるつもりも毛頭ないから超難解。「頭が疲れるから勘弁して」と思うのはいつもこっちで、彼は全くお構いなし。むしろ口元に笑みさえ浮かべている。切り刻みながら微笑(ほほえ)んでいるのだ。その日も私の石がトン死か?と思うところまで追いつめられた。(強い。本当に強い…)
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