病により生活が一変してしまうことがある。そこでの試練はまるで自分の情熱が試されるかのごとく。留学中、局所性ジストニアが右手に発症し、勝手に手が硬直して内側に強く巻き込む症状にいたる。持っている果物を握りつぶしそうになったり、髪を洗う手が曲がり気がついたら拳で洗っていたり。そして立場が弱いと時代の波にものまれやすい。その当時、同時多発テロがあり突然ビザの延長すら難しくなる。しまいには強制送還の手紙まで受けとり、リハビリを続けるために友人や弁護士と共に戦う日々に。
日常がすっかり変わってしまった。しかしリハビリ生活での発見は大きかった。硬直した手の力の抜き方を医療機関などで学ぶのだが、これはピアノ演奏の極意ともいえる「脱力」を病の角度から本格的に研究することに繋(つな)がっていく。おかげで日常生活の動作は行えるまでに回復した。
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