「なんで音楽をやっているの?」。これほど音楽家を困らせる質問はないだろう。私がピアノを好きになったのは、中学の頃にクラスの合唱伴奏をしたときだ。友人たちはピアノ演奏に喜びはしゃいだ。その姿に、えも言われぬ幸せを感じたのがきっかけだ。
それからは自分の技を磨くためだけではなく、人を喜ばせるためにピアノを弾くようになる。その演奏の噂(うわさ)は広まり、不良少年からも体育館に呼び出された。まさかピアノの上に腰をかける彼らのためにショパンを演奏することになるとは。紹介の仕方を研究した。彼らの興奮した顔が忘れられない。
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