「投資ジャーナル事件」を覚えている人はまれだろう。「兜町の風雲児」と呼ばれた相場師・中江滋樹が詐欺容疑で逮捕され、戦後最大の詐欺事件と騒がれたのは1980年代半ば。当時私は学生だから、事件を取材したわけではない。中江氏と会ったのは5年ほど前、事件からすでに30年が過ぎていた。目的は、中江氏とかつて親密だった、現在活躍中の財界人の話を聞きだすことだった。
はじめ、こんな若いのかと驚いた。彼が投資ジャーナル事件でつまずいたのは弱冠30歳過ぎだ。けれど会話を交わすうち、相場師に復帰できる見込みなどないことはすぐわかった。精神を病んでいる兆候すら感じられたからだ。彼は、私の意中の人物についてはしらばくれ、物故した大物政治家の逸話となると饒舌(じょうぜつ)になった。幾度か会ったものの、結局、武勇伝を聞かされるだけに終わった。
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