「被災された皆さまに、お見舞い申し上げます」
昨年12月、東京。JR池袋駅近くにある高層ビルのホールで、豊島区の職員が頭を下げ、説明を始めた。
「町の真ん中を走る道路は、最低でも幅6・5メートルにしたい」「道路や公園整備のために、皆さんお持ちの土地を出し合って」…。
上池袋2、3丁目の住民や区などが実施した「復興まちづくり訓練」=写真。大地震の発生から1カ月-との想定で、区が「復興まちづくり方針」案を示した。
「本当に今の道路では不十分なのか」「広場は必要か」「土地の提供面積は減らしてほしい」。参加者の意見は、15年前、阪神・淡路大震災後の復興まちづくりで住民が抱いた疑問と同じだった。
上池袋は、戦災跡地に建てられた木造住宅が今も残る密集市街地だ。訓練では、地区の4分の1が地震後の火災で焼失した、と仮定した。3丁目町会長の長橋孝さん(81)は「神戸の地震があって、初めて今のままでは大変と考えた。今から議論しておくことで、防災意識を高めたい」と話す。
こうした訓練は今、都内各地で取り組まれる。
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近い将来の発生が懸念される首都直下地震。最悪の場合、85万棟が全壊・全焼し、死者は1万人を超えると予測される。
「これまでの訓練は、避難まで。その先を想像することで、被害を具体的に考え災害に備えてほしい」と足立区。区内に残る密集市街地の環境整備が長期化する中、2004年度からまちづくり訓練を取り入れた。
訓練は町歩きから。危険な場所はないか。逃げられる道や公園はあるか。その上で、復興に向けた町の姿を話し合う。道路の幅、公園の広さ、復興住宅の場所…。議論は“本番”さながらだ。
各地の訓練で講師を務める「人と防災未来センター」上級研究員の中林一樹・首都大学東京教授は「災害後の議論のように見えるが、話の内容は今からでも取り組めるまちづくり。平時から考えておけば、早く復興へ動き出せる」と話す。
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阪神・淡路大震災の被災地で、行政が復興まちづくりとして進めた土地区画整理事業や再開発事業は、2カ月後の都市計画決定が「早急すぎる」と住民の猛烈な反発を呼んだ。一方で「長引けば、復興が遅れる」との声が行政側に強い。
まちづくり訓練で「地震から3、4カ月後の計画決定」を想定した豊島区の職員は言う。
「被災直後の住民にとって、計画を突然提案されてもそれどころではない。それが阪神・淡路大震災の教訓。災害前から住民と信頼関係を築き、町の将来を地道に話し合っておきたい」
「それでも」と職員は想像する。被害が広がると、行政の目はすべてに届かない。現状では、地域内で仮設住宅を確保することも困難だ。借家人はどうなる。新旧住民の意見の違いもあるだろう。解決すべき課題はあまりに多い。
住み慣れた地域に、できるだけ早く落ち着きたい。15年前、それが被災者の切実な願いだった。その願いに応える準備は今、どこまでできているだろうか。(岸本達也)
=おわり=
2010/1/23