1階の「団らん室」に、「クリスマスメニュー」のちょっと豪華な幕の内が並んだ。昨年12月。尼崎市の市営「久々知住宅」。入居者の個室とともに団らん室など住民交流の場も設けた「コレクティブハウジング」だ。
「ええにおい」「部屋で食べるの、寂しないか? みんなと食べようや」。声を掛け合って、住民が集まってきた。
4階建てに、67~86歳の高齢者22人が暮らす。ほとんどの人が独居。この日は、週1回のペースで開かれる昼食会だった。
団らん室は毎日、誰かが利用する。1999年の完成時から入居する北村鎮子さん(77)と真杉和子さん(80)はここで友だちになった。「自分の部屋にいてもテレビ見てるだけ。けんかもするけど、みんなと居てる方が楽しい」と笑う。
コレクティブは阪神・淡路大震災を教訓に「助け合って暮らす」という理念のもと、公営としては全国で初めて兵庫県内計10カ所の復興住宅に取り入れられた。だが、その理念の実現が今、困難に直面している。
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「住民同士は話をするが、外との結び付きがまだまだ弱い」。久々知住宅で生活援助員(LSA)を務める頼藤蘭さん(32)が指摘する。
公営コレクティブは高齢者向けに整備されたため、LSAが常駐するが、同時に「地域での見守り」も提唱された。
そのため、久々知住宅の敷地内には地域全体の集会所もある。健康体操や折り紙、民謡教室が開かれるが、集まるのはいつも10人程度。顔触れは同じという。団らん室の食事会で、地域住民が交流するコレクティブもあるが、例は少ない。
さらに、「住民同士の支え合い」も難しくなっている。2008年、神戸新聞社とひょうご震災記念21世紀研究機構による入居者アンケートでは、回答世帯の約半数が75歳以上だった。「まるで高齢者施設」「支え合いは限界」との声が寄せられた。
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こうした問題を克服しようと、尼崎のLSAや介護士らが「地域を結ぶ笑顔の会」をつくっている。同会が今月10日、「ふれあいまつり」を市内で開いた。コレクティブなど復興住宅と、地域の住民計約130人が劇や落語、フラダンスなどを楽しんだ。
代表のLSA林英明さん(26)は「復興住宅は高齢化が進む上、団地なので地域から孤立しがち。まつりを通じ復興住宅がどこにあるか-だけでも知ってもらいたい」と力を込める。
県内の復興住宅で65歳以上の占める高齢化率は48・2%。県も「入居者だけでのコミュニティーづくりは難しく、周辺地域を巻き込むしかない」と認める。コレクティブ1カ所を含む33カ所に「高齢者自立支援ひろば」を設け、復興住宅だけでなく、地域全体の見守り拠点とするが、コミュニティーづくりは進まない。
井戸敏三知事は、公営住宅の入居基準を緩和しようとする国の動きに合わせ、復興住宅で自治会活動を担う若年世帯の優先入居拡大を検討する考えを示した。
入居者同士、地域ぐるみの「支え合い」をいかに促すか。模索が続く。(上杉順子、岸本達也)
2010/1/21