「あった」。細い路地に入り込むと、古い長屋が現れた。大阪市立大学大学院2年の百崎久美子さん(25)はこの冬、後輩たちと同市生野区をくまなく歩いた。探したのは、長屋だ。
戦災を免れ、今も古い木造住宅が多く残る。見つかる長屋は、多い日で150棟。百崎さんは街並み保全や町の魅力づくりの視点から、長屋の現状を調べる。
「人付き合いを大切にした暮らしができる。残したいが、耐震、耐火面の課題もある」と百崎さん。指導する藤田忍教授らのグループは、長屋の耐震化や利用、活用に取り組む。
大阪市も昨秋、百崎さんらのデータも活用し、全市の長屋調査に乗り出した。「防災面から把握したい」と担当者は言う。
国は2003年、長屋を含め、古い住宅が狭い区域に多い「重点密集市街地」を指定した。全国8千ヘクタールのうち、同市だけで1360ヘクタール。阪神・淡路大震災では、こうした密集市街地が大きな被害を受けた。
発生が懸念される上町断層帯地震では、大阪を中心に最大死者4万2千人が予想される。同市は08年度、老朽住宅を解体すれば、理由を問わず費用を補助する3年限定の制度を全国に先駆け導入した。耐震改修の補助率も50%まで引き上げた。基盤整備も含め、災害に強い町を目指すが、その面積はあまりに広大だ。
◆
兵庫も例外ではない。国指定の重点密集市街地は、実態と異なる面もあるが、神戸、尼崎、明石に計11地区295ヘクタールある。
大阪の西隣、尼崎市は05年、独自に抽出した「重点密集市街地」3地区(計約60ヘクタール)の取り組み方針をまとめた。戦災や震災を免れた区域には、昔懐かしい土の路地が残る=写真。
「再開発などの大事業より、まずは建て替え促進で一戸一戸を強くする方法を検討したい。財政も厳しいので」と同市。1950(昭和25)年以前の建物が3割を占める地区もある。今は住民がまちづくりのルールを検討しており、最低限の道路幅があれば、狭い敷地でも建て替えしやすいよう規制を緩和する方法などが挙がっているという。
高齢者が多く、個々の建て替えに頼る手法は、長期化が避けられない。が、市は長所も強調する。「住民の生活の場をできるだけ変えない。今の時代、それが地域を守ることにもなる」
◆
住民が積極的に町の今後を考える動きもある。
約1200世帯が暮らす神戸市兵庫区の夢野西地区では2008年、まちづくり協議会が「まちづくり構想」を策定した。山のふもとにあり、狭い坂道や古い擁壁などが多い。災害時の避難ルートも意識し「まちを地区外につなぐ道路」「まちの骨になる道路」などのイメージ図も考えた。
同市内の山ろく部は震災被害が比較的少なかった。市は今後、こうした地域に残る密集市街地を独自に抽出、取り組みを検討する。
夢野西地区のまち協は子ども向け行事や地域史の勉強会にも取り組む。会長の山平幸男さん(79)は「地震後、ここは住みにくい、と町を離れた高齢者もいる。少しずつでも災害に強くし、魅力も高めたい」。住み続けられる町。それが目標だ。(岸本達也)
2010/1/22