震災の年、鐘をクレーンでつり上げて、除夜の鐘を突く寺の話を聞いた。
大みそかの夜、神戸市灘区の龍泉寺に急いだ。寺の施設は全壊、鐘楼はない。境内にクレーン付きのトラック。やぐらを組んで仮設の鐘楼をつくった。一突き、また、一突き。再建を急ぐまちに鐘の音が響いた。
その年の十一月、建て直した本堂に信者が集まった。「除夜の鐘をつきたい」の声が上がった。例年、関俊英住職(56)らが参拝者にぜんざいを振る舞う。ささやかな年越し行事を楽しみにしている人は少なくなかった。
「長年続けてきたことを絶やすことは出来ない」。強い意志からアイデアは生まれた。「これまでとは違う新鮮な気持ちで、新年を迎えることができました」と住職は言った。
クレーンを使った除夜の鐘は、五年間続いた。二〇〇〇年五月、鐘楼が完成。「ようやく寺らしくなった」と地元は喜んだ。再開発などで周辺は様変わりし、近くに新しいまち「HAT神戸」もできた。「にぎわいが戻ってきたのがうれしい」と住職。
鐘の音とともに、まちに新しい年が訪れる。これまでも、これからも。(写真部 藤家 武)
2004/12/4