震災の年の暮れ。被災地の迎春の準備は、いつもの年より静かで厳かだったように思う。
それだけに、にぎやかな声は際立っていた。
神戸市長田区の御菅地区。火の海にのみ込まれた街。更地の中で石うすを囲み、もちつき大会が開かれた。
本丸文夫さん(53)は、この日を楽しみにしていた。末っ子、兄と姉が合わせて四人いる。
両親が残してくれた木造二階建ての家は全焼、跡地にプレハブの仮住まいを建てた。仕事も失った。つらいことが重なったが、家族の恒例行事は中止したくなかった。
振り下ろすきねに力がこもる。掛け声と笑顔。カメラのレンズ越しに、家族のぬくもり、強さを感じた。
もちつきは、その後、三年ほど続いて途絶えてしまった。
いろんなことが重なった。区画整理の網がかかり、仮設住宅での暮らしを強いられた。二十メートルほど南の土地に、ようやく平屋の家を再建したのはおととしのことだ。
二重ローンに病気。兄も姉も辛苦を抱え、不安定だった。でも、何か起これば助け合って生きてきた。
「また、もちつきやりたいなぁ」。文夫さんはずっと思い続けている。(写真部 岡本好太郎)
2004/12/3