地震保険の判定は「全壊」、神戸市は「半壊」。
「この違い、一体何や」。神戸市長田区でお好み焼き店を営む男性(74)は、訪ねた私たちに、釈然としない損壊判定の不満をぶつけた。
保険会社の調査係が壊れた自宅兼店舗に来たのは、地震から一カ月後。地震保険には別段、深い考えもなく数十年前から加入していた。全壊判定を受けて手にした保証金は五百万円。すべて、家の修理に充てた。
一方、神戸市の判定が「半壊」と分かったのは、それより二カ月後。義援金の申請で区役所に行って初めて知った。地震保険の話もし、当時の家屋内の写真も見せて再調査を頼んだが、受け付けてくれなかった。
この罹災証明(りさいしょうめい)が、その後の生活再建、法とのかかわりすべての基本になってくる。成立した生活再建支援法に伴う昨年六月の自立支援金では、資格対象の判断基準になった。
男性は資格があると思い、修理した内容を添えて申請した。だが、対象は全壊か半壊で解体証明のある世帯。当然、却下された。
「そういう人は結構いて。矛盾はあるけど、決まりごと。むしろ運動を盛り上げてください」。区役所の職員から飛び出した言葉に、あ然とした。
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損壊判定。基準は一九六八年の内閣総理大臣官房審議室長の通達による。全壊は「損壊部分の床面積が延べ床面積の七〇%以上または…」とある。それまで消防、警察、厚生省など省庁間でばらついていた判定基準を統一した。
阪神・淡路大震災までは、この基準で特に問題はなかった。だが、そのあいまいさとともに、判定の重要さが震災で浮き彫りになった。
全・半壊だけで四十万世帯超。被災地全体で何人が判定に当たったのか、記録はない。市町で、ばらつきも見られた。「判定が甘かったことは否定できない」と尼崎市。判定が信用されず、銀行で通用しなかったという話も聞いた。
被害の最も大きかった神戸市では、他府県からの応援を含めて延べ三千六百六十人が判定に当たった。通達を基に独自の判定基準を作り、外からの目視で判断した。しかし、その判定に納得できず、六万件以上が再調査を要望。全壊で約一万二千五百件、半壊で約二万三千四百件増えた。
時間のなさと緊急性が生んだ結果と言えるが、問題はさらに膨らんだ。
当時、判定に携わった神戸市理財局の御宿孝税制課長は「当初は、税の減免と義援金の判断基準にするためだった。気が付くと、それにすべての施策が付いてきた」という。かつて災害救助にかかわった厚生官僚も「迅速性が求められる災害救助法発動のための基準に、支援法が乗っかった。お金を配る基準は、ほかで作るべきだ」と。
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これを教訓に、神戸市は地域防災計画で、建物の各部分の損傷率から全体の損壊度を正確に計算する独自の判定マニュアルを作成した。国には「具体的な判定方法と、人材の育成を」と要望する。
一方、国は「判定は自治体の仕事」「基準を具体化すれば判断は難しくなる」と従来の方針を変えない。その中で、国土庁の生田長人防災局長が、前向きな言葉で取材に答えた。
「国土庁の検討委員会で議論されている住宅再建支援は、支援法以上に住居診断が重要になる。診断できる人を増やすシステムを作るとともに、もっと論議すべきだ」
「壁」が一つ、ようやく崩れてきたのか。
1999/8/19