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(5)免責条項への疑問深く 保険金は、なぜ出ないのか
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 神戸市東灘区魚崎北町五、六丁目。震災当日、猛炎が一帯を焼き尽くした。
 何度も、この町を訪れた。そのたびに、真新しい住宅が増えていた。
 だが、路地を入った更地に建つ一軒の仮設小屋が、この町の苦悩を伝える。

 小屋の持ち主、新戸建男さん(56)に会った。住民が火災保険金の支払いを求め、集団訴訟を起こしている。新戸さんは原告団長だ。

 小屋には、近くの住民らがいた。お年寄りが多い。
 「再建できても、厳しい生活は変わらん。保険金が出れば、精神的にも、どれほど助かるか」
 新戸さんが嘆いた。

    ◆

 地震から約八時間後に発生した火災は、この町の約百世帯を灰にした。すべてを奪い去った。火災保険。それが住民の支えだった。

 しかし、保険会社は約款の地震免責条項を盾に、保険金の支払いを拒否した。

 条項は
(1)地震による火災
(2)地震による火災が延焼・拡大
(3)出火原因に関係なく、地震で延焼または拡大した
-場合には保険金を支払わない、としている。

 「そんなこと聞いていない」「契約時の説明が不十分だった」と、口々に訴えても、答えは同じだった。

 九五年秋。住民七十三人が損保会社などを相手に、総額十一億三千万円の支払いを求めて提訴した。被災地最大の集団訴訟である。

 同様の訴訟は震災以降、神戸、大阪地裁で約三十件。いずれも「地震免責条項の有効性」と「火災の原因」が争点だ。

 これまで出た判決は、約十件。出火場所や原因の「認定」で明暗が分かれた。うち、地震との因果関係を認めた上で、過失割合を判断し、一部支払いを命じた判決が二件ある。

 神戸学院大法学部の岡田豊基教授(保険法)は「個々の認定によるが、被災者の状況を加味した判断といえなくもない。画期的な判決だ」と話した。

 一方で、地震免責条項の壁は厚い。関東大震災時からある有効性を認める判決が続く。「説明は十分だったか」という原告の主張に対しては、判断が難しいのか、触れられないままだ。

 兵庫県弁護士会は昨年十月、契約時の説明方法の改善などを盛り込んだ提言を損保会社などに出した。説明義務を盛り込んだ「消費者契約法」の制定を求める声も高まっている。

 業界に聞くと、震災後、説明方法を改善した社もあった。ただ、日本損害保険協会は「地震保険を今後もPRしたい」と強調した。

    ◆

 今年四月。魚崎北町の集団訴訟のうち、神戸市民生協を相手にした訴訟の判決が、神戸地裁であった。

 判決は、免責条項の中で(3)の項目がない、市民生協規約の不備を認め、共済金の一部支払いを命じた。免責条項の適用範囲に踏み込んだ初の判決だった。

 被告、原告の一部は控訴したが、新戸さんは「説明もなく、加入を勧めるだけの業界にくぎを刺した」と評価する。

 地震保険制度は、一九六四年の新潟地震を機にできた。その新潟地震での火災をめぐる訴訟をきっかけに、地震免責条項は改正され、(3)の項目が追加された。

 地震災害は、火災保険による救済にはなじまないとする業界。だが、勧誘姿勢はどうだったのか。救済の法整備は十分だったのか。

 一連の訴訟に、被災者の思いが詰まる。

1999/8/23
 

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