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(7)抜本的な救済策もなく 家を失い、ローンだけが残った
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 住宅ローンを抱えたまま震災で家を失った被災者。その数は定かでないが、自宅を再建し、二重ローンに苦しむ人は多い。

 被災者の二重ローンを防げという救済策が、震災から二年半たった九七年夏、通常国会に提案された。

 震災直後、制定された国税関係の特例法の一部改正案として、当時の新進党が提案した。

 持ち家を失った被災者が旧債務を上回る額の再建ローンを新たに組む場合、同じ金融機関から借りていた旧債務は免除される。金融機関は一件二千万円を限度に免除し、損金処理できる・などの内容だった。

 だが、「他の被災者との均衡を失する」「大きな混乱を招く」などとして、趣旨説明だけで審議されることもなく、廃案になった。

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 大震災は、一九五〇年の住宅ローン制度創設以来、初めて大都市圏を襲った。当時、被災地に住宅ローンはどれほどあったのか。消費者問題などを追及する島本慈子さん(47)は、昨年末に著した「倒壊・大震災で住宅ローンはどうなったか」で、実態に迫った。

 奈良の自宅で、島本さんは、入手した大蔵省銀行局作成の資料を示した。被災地のローン残高は震災当時、推計で住宅金融公庫が約二兆四千億円、銀行が約三兆三千億円に達していた。

 「焦げつきが多発していれば、国は実態把握に動いただろうが、実際は少なかった。ローンを抱えた被災者は、『自助努力』の名のもとに、放り出された」

 島本さんが指摘した。

 公庫の災害復興住宅融資の利用額は一兆円を軽く超す。公庫の大阪支店が九七年に実施した被災者意識調査の結果がある。

 四十七・五歳。再建ローンを組んだ被災者の平均年齢だ。全国平均の四十一・二歳を上回り、二重ローンでは四十八・一歳だった。

 実際、二重ローンを抱える人は全体の五・七%に過ぎない。だが、生活費の四分の一以上を返済に充てる人は五四%に上った。

 新たにローンを組んで住宅を再建・購入する被災者には、復興基金から利子補給がある。だがローンすら組めない被災者への支援策は今もない。返済条件の緩和措置を受けると、月々の返済額は減るが、期間が延び、総額は増える。

 一見、救済策のようだが、中身はそうではない。

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 六月末。兵庫県西宮市に住む男性会社員(61)のもとに、公庫から住宅ローン支払い明細書が届いた。二年の据置期間が終わり、七月からの元金返済開始を告げていた。

 震災で自宅は全壊。その時、ローン残高は元金だけで千百四十万円。九七年春の再建まで、月々の返済に加え、仮住まいのマンションの家賃も支払った。

 再建費用は約二千七百万円。約千六百万円の新たなローンを組んだ。返済終了は二十五年後。復興基金からの利子補給は五年間、約百四十万円。退職金は、旧ローンの返済に消えた。

 「疲れを感じる」。男性は、やりきれない表情で「自然災害は国の責任ではないというなら、個人も同じはずだ」と話した。

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 島本さんは、ローンを抱えた被災者に強まる精神的な疲労を懸念する。
 「破たんした人々がすでに出ている。救済策を講じないと悲劇は拡大する。それからでは遅い」
 そして、救済案を提案した衆院議員。
 「被災者にマイナスからではなく、せめてゼロから再出発してほしかった」

1999/8/26
 

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