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(2)転換点 流れを変えた住民投票
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 阪急西宮北口駅から北東に広がる西宮市高木西町。まだ、更地が目立つ一角の銀行寮集会室で、十二月中旬、「北口・高木まちづくり協議会」の役員会が開かれていた。

 周辺三一・二ヘクタール、約千七百世帯が対象の区画整理事業はすでに計画決定、役員会の課題は地区計画の検討だった。市職員を交えて二時間近い勉強会の後、缶ビール片手にささやかな忘年会が始まった。

 酔いが回り、場も和むころ、副会長の神田昭雄さん(48)が、中じめのあいさつに立った。

 あえて、という感じで神田さんは話した。「街づくりは住民みんなで決めることだ。今度はもう間違いは許されない。今年の失敗を忘れず、です」。苦笑いを浮かべる顔。黙ってうなずく顔。役員の思いは昨春の住民投票に戻っていった。

    ◆

 三月二十日、市立高木小学校の体育館は、騒然とした雰囲気に包まれていた。事業計画が県都市計画審議会に諮られるのを前にした臨時住民総会だった。

 「みんな再建を心待ちにしている。ここで決定すべきだ。決定後も住民案が提示されれば変更すると、市は約束している」。まちづくり協議会の提案に、反発が相次いだ。

 当時、市は減歩率一〇%以下としていたが、実際の率は示されず、デマも飛び交っていた。「住民の大半は延期を希望している。まち協は住民の代弁者ではないのか」との延期派の声に押される形で、その場で参加者全員による住民投票が決まった。

 決定 八十六票
 延期 百二十四票
 白票 四票

 参加した住民の六割が延期を支持する結果に、苦境に立たされたまち協は一転、市に「合意が不十分だった」と延期を要望。市も県都計審に異例の審議保留を要請した。

 「早期決定の方針が理解されている、と思っていたところにあの大差。言い換えればまち協への不信任だった。結果はこたえた」と、役員は振り返りながら、こう話した。

 「まち協の役員内部にも考え方で溝があった。今考えると、火種を抱えたまま見切り発車するより、立ち止まって冷静になる方がよかった」

 延期決定後、まち協はアンケートだけに頼っていた意見集約の手法を改め、地域ごとのミニ集会を開いた。推進方針に反発して役員会をボイコット、延期票を投じた神田さんも十回以上、ミニ集会に参加した。

 集会の意見は協議会に吸い上げられ、市との話し合いが進む。地元合意は次第に形成され、延期を主張していた高木東町自治会は、計画推進の要望書を市に提出した。

 十八メートルを十五メートルに、十二メートルを八メートルにする道路幅縮小などを盛り込んだ変更案が、市から提示されたのは六月。県都計審での事業計画決定は十一月で、当初の予定から八カ月がたっていた。

    ◆

 協議会が検討している地区計画は、「諸刃の剣(もろはのつるぎ)」にも例えられる。高さや用途を制限し、住環境が守れる一方、敷地面積の最低限度を設けると、分筆できなくなる。ジレンマがつきまとう。「慎重かつ徹底した論議なしには決められない」との発言に、役員らは深くうなずいた。

 「住民置き去りの現状にブレーキをかけたのがあの投票。無関心層にも街づくりに加わることの大切さが伝わった」。神田さんは今年を「正念場の年」と考えている。

1997/1/4
 

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