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(10)支援立法 民主主義のあり方模索
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 「おとぎ話が児童文学になり、ノンフィクションになろうとしている」

 作家・小田実さんの言葉は熱っぽかった。

 年明け早々の七日夜、JR芦屋駅前のビルで開かれた「市民=議員立法実現推進本部」の集会には、小田さんら十人が集まった。

 同本部は、被災者への公的支援を定めた「生活再建援助法案」の実現を目指す。法案原案には▽全壊世帯に五百万円の援助金給付▽住宅再建のための二千万円の貸し付け・などを盛り込む。

 賛同する国会議員は衆院四十七人、参院二十八人。党派を超え、法案提出に必要な衆院五十一人、参院二十一人まで、あと一歩に迫っている。「できれば今月中に法案をまとめ、なるべく早く国会に出したい」と、小田さんは続けた。

 だが、話が今後の取り組みに移った時、運動に加わる被災者団体の代表が発言した。

 「自民の議員が動かないと実現できない。そこに何とか切り込む方策を講じないと」

    ◆

 同本部は、昨年十一月以来、田英夫参院議員らと法案の詰めを急いできた。

 議員立法を実務面でサポートする参院法制局の担当課長らも、東京での研究会に参加してきた。会合に出されたメモには「検討点」が、列挙されている。

 そこには、こうも書かれている。

 「災害弔慰金など他の制度とのバランスを考慮するとともに、社会福祉的な支援の枠を超え、個人補償的色彩を帯びないようにする必要があるのではないか」

 自民党は「個人補償はしない」と確認。同党の伊藤公介国土庁長官はこの十日、「私有財産制度での個人補償は困難だ。現行制度の中でもきめ細かい対応ができる」との見解を明らかにしている。法案の自民党賛同議員はまだ二人。被災地でも阪上善秀議員だけだ。

 参院法制局の担当課長は言う。「大きな会派の賛成を得られないまま、見切り発車すれば、棚ざらしになってしまう。意見さえまとまれば、あとは早い。つまり提出する前が勝負です」

 提出24/成立7

 提出34/成立11

 提出4/審議未了

 提出20/成立1

 過去四回の国会で成立した議員立法は、すべて与党が賛成している。

    ◆

 震災二年前日の十六日、市民と議員は東京で三回目の研究会を持つ。参院法制局は、その場で練り直した法案の枠組みを示す予定だ。

 法制局は「災害弔慰金の支給等に関する法律」を改正、家屋被害の見舞金支給を加える提案をする考えで、「法体系の中で無理のない形」とも話す。

 田議員は「震災二年に運動を盛り上げ、自民議員にも何らかの対応が必要と思わせる。他の党から囲い込んで、追い込む」と、外堀から埋める戦略を練っている。

 原案作成の中心になった伊賀興一弁護士は「支援は生活基盤の回復で、個人財産の補てんではない。個人補償ではなく社会保障だ」と強調し、推進本部事務局長の山村雅治さんは「金額などは柔軟に検討するが、理念など原案の柱はゆずれない」と話す。

 震災を機に、災害救援と民主主義の新たな地平を開きたい市民の熱い思いが「理念」という言葉にこもる。

 既存の政治システムの中で苦闘する法案の行方。小田さんは言う。

 「この法案が通るかどうか分からないが、必死になってする。だめだったら、ここは人間の国ではない」

(記事=西海恵都子、鉱隆志、松岡健、竹内章、下土井京子

=おわり=

1997/1/12
 

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