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(9)空港への異議 見えにくい全体の意見
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 運輸省主催とはいえ、舞台横に座っているのは航空局管理課の各務正人課長一人だった。司会の同省職員に促され、発言者が次々に公述席に着いた。

 十二月十九、二十日に神戸市中央区の西山記念会館で開かれた神戸空港公聴会。「神戸空港を考える会」事務局長の中田作成さん(57)は強調した。「生活再建が進まない中、なぜ今、空港なのかという抜き難い疑問がある」

 三千百億円にのぼる財政計画の見通しや埋め立て土砂の調達、環境への影響…。その内容は、空港計画が明らかになって以来、六年間異議を唱え続けてきた活動の一つの決算ともいえた。

 神戸市が飛行場設置許可を申請し、大きな節目を迎える空港計画。運輸省が地元の意見を聴く機会は、この場しかなかった。意見表明は延べ十四時間半に及び、公述人は過去最多の百六十四人を記録した。

 しかし、条件付きも含め賛成した百六人の大半は、神戸財界や企業、商店街の代表者。長い目での空港の必要性を強調、経済復興、雇用創出などのメリットを挙げた。反対した五十八人はまた、「考える会」のメンバーら、中田さんが知っている顔ぶれだった。

 神戸商工会議所に事務局を置く空港建設促進協議会関係者は「動員をかけたわけではない。空港を必要とする熱意の表れ」と口をそろえるが、中田さんは漏らした。

 「結局は経済界対住民団体の構図。その間にいる一般の市民が抜け落ちた」

    ◆

 公聴会直前の十二月十七日。市会本会議で、空港計画に反対する「さわやか神戸・市民の会」の議員は、整備推進の考えをあらためて笹山市長にただした。

 市長は答えた。「市民の皆さんが決めたことだ。それでないと議会は何のためにあるのか」

 過去、議員が空港の是非を問う住民投票を求めたこともあった。しかし、市は「議会の承認を得ている」と繰り返してきた。

 九〇年三月、同市会は第六次空港整備五カ年計画への神戸空港組み入れを求める意見書を全会一致で議決した。震災などを機に、反対に転じた会派が生まれたが、毎年三月、空港関連費を盛り込んだ予算は賛成多数で可決されてきた。

 九六年度予算も反対したのは共産党、新社会、さわやか神戸・市民の会と無所属の計十九人。五十三人が賛成した。

 本会議前日の十六日、神戸市会空港特別委は、飛行場設置許可の申請撤回を求める請願を否決、賛否の構図は予算と同じだった。

    ◆

 「市民の反応はどうなっていますか」。昨年十一月末、伊豆大島のホテルで開かれた第五回全国空港問題交流会で、中田さんは地元の環境保護グループのメンバーに問いかけられた。

 交流会には静岡や滋賀などで空港計画に反対し続ける市民団体のメンバー約七十人が参加していた。

 中田さんは「被災地では生活復興に追われ、空港は最大の問題とはなっていない」と答えた。相手は納得いかない様子で「神戸ほどの街でなぜ」と問い返してきた。

 空港は今春、飛行場設置許可の申請が下りる見通しだ。九七年度には空港島埋め立ての環境アセスメントも予定される。

 中田さんは「住民自治は、街づくりを自ら担う意識が基本。震災はそれを取り戻す機会だったが」と苦い顔を見せ、「沈黙は承認の印」とも話した。

1997/1/11
 

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