テーブル前のボードに地区全体の地図が掛かる。
「マンションはここなんですが」と役員の一人が五階建てマンションの設計図を手に説明を始めた。
「近隣の住宅の日照はどうですか」
「周辺は五、六階建てが増えている。事業主に北側の住民への説明を依頼しよう」
「ゴミステーションなど自治会でも協議が必要ですね」
神戸市東灘区南部の深江地区。十二月十七日夜、深江会館で開いた「まちづくり協定運営委員会」には、まちづくり協議会役員十六人が参加した。
地区は震災で約四割の家屋が倒壊。更地でマンションなどの建設ラッシュが続く。まちづくり条例に基づき、市と地元が結んだ「まちづくり協定」で、建築確認申請前に内容を住民がチェックする。自分たちの街をどうつくるか。住民自身が審査員である。
◆
協定締結は震災十カ月後の九五年十一月。パチンコ店建設計画が三カ所で相次いだのがきっかけだった。「街が無秩序になってしまう。日照権やゴミ、不法駐車など、環境を守るには何らかの規制が早く必要だと考えた」と協議会事務局長の佐野末夫さん(60)。
協定書には、風俗営業の制限▽幹線道路沿いの建物の壁面後退▽駐車用地の設置・などの項目が並ぶ。建築物の審査対象は、四階建て以上▽五百平方メートル以上▽ワンルームマンション・である。
これまで運営委員会が審査したのは五十八件。パチンコ店はマンションや駐車場に変わり、パスした。事前に協定を意識する抑止効果もあるのか、「認めず」は一件もないという。
「でも昨年九月以降、こんな問題が持ち上がっている」と、佐野さんが挙げたのは、三階建てマンションの一階に入る二十四時間営業コンビニエンスストアの問題だ。
高さ、面積とも審査対象から外れ、すでに建築確認申請がおりた。その後、住民から「迷惑駐車が増える」「夜間の騒音が気になる」との声が上がった。
役員が周辺の意見を一軒一軒聞いて回り、住民を運営委の席に招いた。「騒音や路上駐車の禁止をうたった協定の条項を拡大解釈すれば、対応ができないか」と結論づけ、深夜営業を控えるよう要望を続ける。
だが、店側は「二十四時間営業」がセールスポイント。市も「拡大解釈してはきりがない。住民の大半が賛同すれば協定改正も可能だが、便利という声もある」と疑問を投げ掛ける。
◆
昨年六月、深江地区に次いで神戸市灘区の新在家地区で、協定が結ばれた。「酒蔵のまち」として知られる同地区は、景観を重視し、旧西国浜街道沿いなどの建築物は、白壁や黒がわらなど意匠への配慮を求めている。
新在家南まちづくり委員会事務局長の小西千代治さん(63)は「震災前の街並みへの思いは強い。伝統の街を守りたいが、私有財産にかかわる問題だから」と難しさも打ち明ける。
深江地区では、「協定はあくまでも紳士協定。法的な強制力がないままでは不十分」と、建築基準法に基づく地区計画導入の話が持ち上がっている。
地区計画は用途や建物の高さなどを制限、計画に沿わない場合は、建築確認申請がおりない。同地区の街づくりにかかわるコンサルタントの後藤祐介さん(54)は「内容が厳しくなれば、住宅再建の障害になる」と、導入に慎重だ。
再建は急ぐ。環境は大事にしたい。模索は続く。
1997/1/8