街を仕掛ける-新進建築家の公共空間考
(10)感性実験都市(中)~都市を介して世界の人々と会話をする術を探して~
2018年、ニューヨークに住んでいた私は、データアナリストの中川直美さんと毎週のように会い、新たな公共性をテーマに話し合っていました。不特定多数が利用する公共空間を考える上で、実際に街で実験をしてみないと分からないとの結論に至り、実験場所を探し始めました。そんな中で着目したのは、ビルの外壁工事の時に組む「足場」でした。
マンハッタンでは足場を見る機会が多くあります。この街の独特の風景です。調べてみると、歴史的な建物が立ち並ぶニューヨークはビルが古く、ファサード(正面)の装飾が落下し、歩道を通っていた少女が亡くなってしまうという事故が十数年前に起きました。この事故を機に新しい法が施行され、ビルの検査結果をニューヨーク市に定期的に提出することが義務付けられたのです。その結果、検査に通らなかったビルは補修工事をしたり、工事から歩行者を守ったりするために、歩道を囲むように足場が設置されることになったのです。この街が持つ背景から生まれた無骨な構造体に惹かれ、マンハッタンのとある足場内で実験を行うことにしました。
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