「息子がチキンソテーを作ってくれました。『何回も作っとる』と言われましたが、私は1カ月ぶりに食べたら『こんなん初めてや』と言うらしいです」-。何げない話でほっこりしたり、笑えたり。日々の出来事を毎朝、インターネットラジオで配信するおばあちゃんがいる。番組名は「84才かずこのポカポカラジオ」。2年半前に始め、今やリスナーは海外にも。一体どんな人が話しているんだろう。会いに行ってみた。(喜田美咲)
■離れて暮らす娘に語るように
「お友達になろう」と笑顔で迎えてくれたのは、神河町粟賀町の坂井和子さん(84)。孫は5人、ひ孫は11人。ラジオ配信アプリ「スタンドエフエム」を用いて、離れて暮らす娘に語るように声を吹き込み、放送は900回に迫る。
社会福祉協議会に協力して地域の高齢者に配布する弁当を作るなど、以前から何でもやってみるタイプ。2023年5月、長男の清則さん(57)から「今はラジオも1人で配信できる時代。おかんもできるで」と言われたのを機に「いっちょやったろか」と始めた。
アプリの登録は清則さんがサポートし、毎朝スマホで収録。当初はアドリブで話したが、個人情報を言いすぎてしまうこともあったので、原稿を用意するように。清則さんの添削も受け、2分程度にまとめる。
話すのは老人会での活動や、地域の祭りのことなど。現在の香美町香住区で生まれた自身の過去も振り返り、終戦の時期には戦死した父に思いをはせる。鳥取の連隊にいた父との最後の面会は2歳のころ。当時の記憶はないが、面会の時にこっそりあん餅を渡して喜ばれたこと、父から送られてきたはがきを大切にとっていたことなど、母から聞いた話を紹介し、平和を願う気持ちを伝える。
戦後、母が「お母さんがいるから寂しいことない」と和子さんにかけた言葉はきっと、母自身を励ますためだったのでは-。番組で話したことで、気づくこともある。当時の相手の気持ちを今の自分と重ねたり、考え直して反省したり…。過去の体験から新たな発見がある。
友人らは楽しみに聞くだけでなく、積極的に協力する。原稿用紙用に切りそろえた包装紙をくれる人や「ラジオのネタになるよ」と配信画面に添える写真を撮るように促す人もいる。
数カ月続けたらやめよう、原稿用紙が切れたらやめようと何度か思った。しかし用紙は無くなる前に追加が届く。身近な人だけでなく時に海外など、知らない人からも「いいね」やコメントが寄せられる。リスナーがいると思うと、続ける意欲がわいた。
「年をとって悲しむより、できたことを喜び、感謝していきたい」。ラジオが自分と誰かの元気の源になるよう、いつも最後はこの言葉で締めくくる。「ごきげんよう、またね」
























