念願のアメリカへの密航を果たしたと喜びかけたのもつかの間、どう見てもそこは日本でしかなかった。岡山県のドックに入った船から、悲嘆に暮れながら上陸するや否や、すぐさま父は連行され、取り調べを受けた。
警察官は面白がったのか、優しい対応で刺し身定食のようなものまでご馳走(ちそう)してもらったという。しかし、身分は嘘の供述をした。「岡田まさお」という名前で、本籍地は広島ということにしたそうだ。終戦直後の広島市は戸籍などの資料が整っていないこともあったそうで、調べられないだろうと思ったのだ。
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