私の父は島根県の匹見(ひきみ)町(現益田市)という、現在では「限界集落」ともいわれる地域で生まれ育った。温泉旅館に泊まると、木でできたはめ込みパズルが部屋に置かれていることがあるが、この町の林業の振興PRの一環だろうと思われる。
昭和9年生まれで9人兄弟の下から2番目だった。吉幾三さんの歌のような勢いだったのだろうか、中学2年生の時に家出をして、神戸市生田区に住み着いた。敗戦後間もない神戸の街には夥(おびただ)しい米兵たちがわが物顔で幅をきかせていたのを、ほとんど子供だった父は眩(まぶ)しく感じたのかもしれない。
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