人が大勢集まる家に育った。酒豪だった父は「西播文学」という同人誌を作っていたこともあり、森鴎外、三木清、大岡昇平について仲間とお酒を酌み交わし、悦に入っていた。「締め切りが迫っていて大変だ!」などと騒いでいるのを聞いて「締め切りっていっても自分たちの同人誌なのに」と私は笑っていたのを覚えている。
お正月ともなれば普段に増して大勢が龍野のわが家に集まり酒盛り。母は小料理屋の女将(おかみ)さんのようにこき使われていたからたまったものではない。歌手だった母は父が大好きだった三木露風先生の「ふるさとの」という歌を歌わされていた。私は熱燗(あつかん)を運ぶ係。
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