展示場に出る練習中。おでこには保湿クリームがついています(2025.9.7 安佐動物公園提供)
展示場に出る練習中。おでこには保湿クリームがついています(2025.9.7 安佐動物公園提供)

泥んこで駆け回るマルミミゾウのオスの赤ちゃんが広島市安佐動物公園で一般公開され、人気を集めています。愛称は「アオ」。ただただかわいらしい赤ちゃんゾウですが、マルミミゾウが見られるのは日本ではここだけ。いったい、どんなゾウなのでしょうか。出産、育児をサポートする飼育担当の栗原龍太さんに聞きました。

アフリカの森林地帯に生息するマルミミゾウは、草原地帯に棲むサバンナゾウよりも体が小さめ。耳の形や牙の生え方が異なります。アオの母親メイ(推定26歳)はサバンナゾウとして飼育されていましたが、詳しい鑑定でマルミミゾウだと判明。繁殖相手として山口県の秋吉台サファリからオスの「ダイ」(推定26歳)が来園しました。

-元気いっぱいな赤ちゃんです

「8月5日の朝、当日の担当者が行くと産まれていました。無線で『産まれとるぞ!』と入り、駆け付けました。母親のホルモン値ではもう少し先を想定していて、体重計もまだなくて、最初に測れたのは8月23日で99kg。10月29日には135.5㎏。日に500gずつほど増えています。体高は8月26日に80cm、10月9日に91cmくらい。柵に目盛りを付けてあり、通った時にどの辺りだったかを見ています」

-大きくなった、成長したと感じるのは?

「鼻の使い方が上手になりました。つたない動きだったのが、四苦八苦しながらも鼻先で食べ物をつかめるようになってきました。砂浴びが大好きで母親をまねてやるのですが、まだ自分には砂が全然かからなくて。お相撲さんが塩をまくみたいな状態ですね」

-お気に入りの遊びは?

「泥浴びがすごく好きで、夢中でやっています。展示場に泥水をつくっておくと喜んで転がって泥だらけです。その体を地面や岩にこすり付けるのは、寄生虫ごと泥を落とす習性からです」

-最初の授乳までに時間がかかったようですが

「比較対象がないのですが、少し小さくて、母親の乳首に届かなかったのかなと思います。3、4日経つと乳首を探す頻度が減ってきて、『これでは人工哺育になるかもしれない』と覚悟しながらも、メイが熱心に子どもにアプローチしていたので、その状態を生かしながらサポートしました。8月11日の夕方に初めて直接の授乳が確認でき、ひと安心しました」

-それまでは人工ミルクで?

「母親からの初乳は飲めませんでしたが、それも想定し、母親から事前にとった血液から血漿部分を分離したものを用意し、飲ませることができました。初乳と同じく母親由来の抗体が含まれています。これが、アオが最初に口にしたものです。人工ミルクは、母親の乳首に誘導したり、体重計に誘導するためにも使っています」

ダイが来園後、2022年11月からメイの発情のリズムに合わせて同居を重ね、2024年8月には妊娠を発表。その後も経過を公式サイトで公開し、多くの人が親子の無事を祈り見守りました。これまでを振り返り、「思ったよりはうまく進んだと思います。ダイは慎重な性格で、メイを追いすぎるようことがなかったのが良かったのだと思います」と話します。

■日本でマルミミゾウが見られるのはここだけ!

国内のサバンナゾウは2025年10月現在で21頭(日本動物園水族館協会調べ、非加盟園を含む)。マルミミゾウは安佐動物公園の3頭のみで、どちらも貴重な存在です。同園は、掲示物などを通して、アフリカゾウには2種類がいること、それぞれの特徴を紹介しています。

肝心の「耳」ですが、その違いは形以外にもあるようです。「サバンナゾウは耳の縁がピラッピラですが、マルミミゾウの耳は適度な厚みがあって、餃子の皮みたい」とのこと。

ゾウを担当して37年目。「メイは、常に子どもを気にかけて本当に素晴らしいお母さんです」と栗原さん。「よう頑張ったな。あんたは偉い!と言ってやりたいです」

現在親子の一般向け公開は午後の1時間のみ。「今しか見られないアオの姿をぜひ足を運んで見ていただきたいです」

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一般公開について最新情報は公式サイト参照

(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)