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<工場探険>(1)鋳物 溶湯に映る進化の歴史

2023.07.03
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高温で溶解した鉄を取り鍋に注ぐ。オレンジ色に輝く溶湯がその後、鋳型に注がれ、大型鋳物になる=いずれも姫路市大津区、虹技(撮影・風斗雅博)

高温で溶解した鉄を取り鍋に注ぐ。オレンジ色に輝く溶湯がその後、鋳型に注がれ、大型鋳物になる=いずれも姫路市大津区、虹技(撮影・風斗雅博)

姫路城をあしらったマンホール蓋の模型。これで型が造られる

姫路城をあしらったマンホール蓋の模型。これで型が造られる

運ばれてきた溶湯を型に注ぎ込む。手作業で丁寧に進む

運ばれてきた溶湯を型に注ぎ込む。手作業で丁寧に進む

発泡スチロールで型を製作し、砂に埋め込む。流し込まれた溶湯の熱で気化し、工作機械の部品などの鋳物ができる

発泡スチロールで型を製作し、砂に埋め込む。流し込まれた溶湯の熱で気化し、工作機械の部品などの鋳物ができる

■虹技 姫路東工場・西工場(姫路市大津区)

 オレンジ色に輝く「お湯」が取り鍋(べ)に注がれる。1500度の溶湯(ようとう)だ。まばゆい光、飛び散る火花、体に伝わる熱。生まれたばかりの命の輝きに圧倒される。

 創業100年余の鋳物メーカー、虹技(こうぎ)の生産現場を歩くと、古来、人間の進歩を支えてきた鉄の無限の可能性を感じる。旧字で書くと鐵(てつ)。分解すると「金の王なる哉(かな)」だ。ここでいう金とは金、銀、銅、鉛、鉄の五つの総称でその有用性から鉄が王になるという。

 鉄に関わる動詞は数多い。溶かす、折り曲げる、伸ばす、絞る、鍛える、焼く、削る、つなぐ…。虹技ではずばり「鋳(い)る」。つくりたい形と同じ形の空洞部を持つ鋳型に、溶けた金属を流し込む。冷えたら鋳物と鋳型の砂を分離する。造形は自由自在。原点は紀元前3千年のメソポタミア地方にさかのぼり、日本では鍋、釜に始まり、古くは大仏も鋳造された。

 その進化はすさまじい。工場内では大小さまざまな製品がつくられている。自動車用プレス金型、産業機械、鋼塊(こうかい)用鋳型など大型鋳物、マンホール蓋(ぶた)の小型鋳物…。山本幹雄社長(64)は「一拠点でこれだけ多様な鋳造プロセスを持つところは世界でただ一つ」と話す。

 溶解炉のオレンジの光に目を奪われるが、作業者たちのあうんの呼吸は見事だ。熱効率の高いキューポラなど炉には火力や風力、成分などを示す精密な計器があるが、湯面に映る微妙な光と色の変化を見逃さない。「それぞれが与えられた役割をこなす。播磨の祭りがあるからこういう共同作業ができる」。生産の轟音(ごうおん)の中に秋祭りの勇壮なかけ声が聞こえた気がした。

 最後はマンホールだ。業界では「人孔(じんこう)」で通る。まさしく下水道などの点検のために人が通る穴のこと。毎日何げなく踏み付けている蓋も生産の原理は同じ。取り鍋を傾けて鋳型に流し込む。コーヒーフィルターに熱湯を注ぐように丁寧な作業が進む。

 クルマも通るし、雨風にもさらされる。材料の配合を工夫し、強度、靱性(じんせい)に優れ、摩耗やさびにも強い。豪雨で浮き上がったり、跳びはねたりしないように構造の工夫も凝らされる。今では街を彩る景観材としても定着した。名所旧跡、花鳥風月を織り込んだ「ご当地モノ」が並ぶ様子は興味津々。鋳物の旅は終わらない。(加藤正文)

【メモ】虹技(姫路市) 神戸鋳鉄所として1916(大正5)年、神戸・長田で創業。鋳物メーカーの地歩を築いた。多角化を進め、93年に「七つの技術を輝かせる」との願いで現社名に変更した。姫路市大津区勘兵衛町に本社、姫路東工場、近くの同区吉美に西工場。鋳物関連、環境エンジニアリング事業などを展開する。売上高267億円、経常利益7億円。