男児の遺体が見つかった事件の家族関係図
男児の遺体が見つかった事件の家族関係図

 腰まで伸びた髪を束ね、マスクを着けた女が神戸地裁の法廷に入ってくる。証言台の前に座って言った。

 「息子を守れなかった罪を償おうと思って臨んでいます」

 女は2023年6月19日、神戸市西区のメゾネット型住宅で同居する長男の穂坂修(なお)=当時(6)=を虐待死させたとして、傷害致死と死体遺棄の罪に問われた母の沙喜(37)だ。修はスーツケースに体を折り曲げて入れられ、草むらに捨てられた。

 共謀したとして起訴されたのは、いずれも同居する修の叔母で双子の朝美(ともみ)(33)と朝華(あさか)(33)、そして叔父の大地(34)。このうち大地を除く3姉妹の裁判員裁判の判決が14日に迫る。

 裁判では3姉妹らの証言を通じて、事件を主導したとされる大地の言動も浮かび上がった。

    ◇    ◇

 19日の朝、修は起きてきてすぐに大便を漏らした。40度近い熱があった。

 朝華と朝美の2人は床を拭くよう大地に言われ、間もなく、次の指示が響いた。「修、床に転べ」。修は正座し、おびえて体を丸めたが、大地は2人に両手足を押さえるよう命じた。

 大地は鉄パイプを沙喜に手渡し、殴るように命令したと2人は記憶している。「お姉ちゃんは『おまえなんか嫌いだ』って言って、ちびちゃんをたたきました。10回か、10回以上」

 その後、大地は修を椅子に座らせ、朝食のパンを食べるよう命じる。修はぐったりとし、朝美が口に運んだ一切れも飲み込めなかった。しばらくして、大地はテレビをつけてアニメを見るよう促したが、修がぼうぜんとしていることに腹を立て、次は首をつかんで持ち上げた。

 「足が宙に浮いていた。30秒か、1分ぐらい」「ちびちゃんの目がくるって回って、口が開いて、死んじゃったって思って」

 朝華と朝美は次に起こる惨劇を「怖くて止められなかった」と証言している。

 大地は修を再びうつぶせにし、沙喜にまた鉄パイプで殴らせる。修の呼吸が乱れていく。朝華は大地が背中に乗って跳びはねるのを見た。「10回ぐらい」。修は目をぎゅっとつぶり、歯を食いしばっていた。それからも「右足で10回ぐらい踏みつけ、左足でも連続で踏んでいました」

 大地は椅子に座らせたが、修は目を開けない。大地は「またテレビ見てないのか」と怒鳴り、手のひらを顔にかざして言った。

 「息してない」

    ◇    ◇

 公判では3人の証言がところどころで異なり、矛盾点を問いただす場面もあった。沙喜は鉄パイプで殴ったことは認めたが、力いっぱいではなく、体に当てずに椅子をたたいたり、たたく「ふり」をしていたと主張している。

 事件から2年半。沙喜は拘置所でいくつもの修の絵をノートに描いていた。笑っている顔、大人になった姿…。公判で修への思いを問われ、ハンカチで涙をぬぐってこう語った。

 「守ってあげられなくて、ごめんなさい」

 なぜ、3姉妹は大地に服従し、暴行に加担したのか。公判では、それぞれに軽度の知的障害や強迫性障害を抱え、大地からの日常的な暴力と虚言によって「マインドコントロール」を受けていたことも指摘された。大地や沙喜が子ども時代に虐待を受けて育ってきたことも事件に影響を与えたとされる。

 「6月を地獄の月にしてやる」。大地は5月に修へこう告げた上で、虐待の激しさを増していった。行政は家族の異変に気付いていながら、重く受け止めることはなかった。

 公判から事件をたどる。(敬称・呼称略)