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店の前で常連客と話す大城光子さん=尼崎市玄番北之町
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店の前で常連客と話す大城光子さん=尼崎市玄番北之町
「秘伝のたれ」で煮込んだホルモン=尼崎市玄番北之町
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「秘伝のたれ」で煮込んだホルモン=尼崎市玄番北之町
トングで豚足をつかむ店主の大城徳幸さん=尼崎市玄番北之町
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トングで豚足をつかむ店主の大城徳幸さん=尼崎市玄番北之町
無数の枝肉が並ぶ冷凍室=西宮市西宮浜2
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無数の枝肉が並ぶ冷凍室=西宮市西宮浜2
仕入れた豚肉の胴をさばく喜友名悟さん=尼崎市玄番北之町
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仕入れた豚肉の胴をさばく喜友名悟さん=尼崎市玄番北之町

 秘伝のたれで煮込んだ豚ホルモンの匂いがまちに立ちこめる。兵庫県尼崎市の新三和サンロード商店街にある精肉店「栄屋」では、きょうも軒先に香ばしい湯気が上がり、出来たてを買い求める客足は絶えない。戦争を経て、沖縄をルーツに工都・尼崎のソウルフード「軒先ホルモン」などの食肉販売を手がける一家に密着した。(池田大介)

■熱々で甘辛い

 注文が入ると、1メートル四方の鉄板をコテでかき混ぜ、肺や大腸、小腸をどさっと皿に盛って手渡す。

 「うまい! SNS(交流サイト)で知って来ました」。若い男性は早速、店先の路上でほお張り、満足そうに笑った。

 国産豚を専門に扱い、店頭には赤身やタンの精肉も並ぶ。沖縄料理の角煮「ラフテー」に使う皮付きのばら肉は人気商品だ。

 熱々の煮込み豚足がどんどん出てくる。調理場で、従業員の山内昌一さん(53)が大釜から揚げざるでこぶし大の豚足をすくい、蛇口の水を浴びせて、手でひともみする。

 「硬さを確認するんよ。80度くらいはあるけど、もう慣れたね」

 「いつもの1キロお願いー」と女性客の声が響く。店主の妻、大城光子さん(66)がばら肉を紙で包んで手渡し、笑顔で言った。

 「まいど、まいどねー」

■伯父に誘われ

 軒先で調理したホルモンを出す店は栄屋を含め一帯に数軒ある。1970~80年代は焼き肉店と精肉店30軒ほどが密集していた。

 まちは労働者であふれ、店先にはいつもビール片手にホルモンを食べる人混みがあった。枝肉を1頭分丸ごと買う人も多く、仕入れと調理に追われ続けた。

 店主の大城徳幸さん(71)は「従業員はみんな沖縄のもん(者)よ」。自身も沖縄県読谷村の出身で、23歳まで米軍基地でバーテンダーをしていた。

 ベトナム戦争に向かう米兵で繁盛したが、75年の終戦で解雇された。幼なじみの光子さんと結婚し、空調機器を扱う作業員として大阪で働いていた頃、栄屋2代目店長だった伯父に誘われた。

 「店の面倒をみてくれ」。尼崎には太平洋戦争前から沖縄の出稼ぎ者が多く、同じく遠縁に当たる初代の店長は戦後の闇市で開いたらしい。80年に徳幸さんが店を継ぐと、沖縄の親族や知人も駆けつけてくれた。

■仕入れと下処理

 午後2時、栄屋の冷蔵冷凍車が、兵庫県西宮市食肉センターに到着した。中の冷凍室には100本を超える枝肉がつるされている。

 光子さんの弟、喜友名(きゅうな)悟さん(53)が屈強な腕で担ぎあげ、刃渡り50センチののこぎりで前、胴体、後ろを3等分に切って車へ詰める。

 朝から仕入れで大阪も回り、140キロの肉を積んで運転しながら言った。「18歳で沖縄を出てきたから、もう30年以上になるかぁ」

 店に戻って買いつけた肉を冷蔵庫に入れ、一部を調理台に並べる。豚足は表面の毛をかみそりでそり、豚トロは包丁で脂をそぎ落としていく。

 光子さんが作業に加わり、教えてくれた。「仕入れて終わりちゃう。下処理も、意外と大変なんやで」

■苦境の中に光も

 徳幸さんは8年前に病気で大手術をし、後遺症で肉をさばけなくなったため、仕分けや袋詰めをこなす。

 市内にはスーパーが増えて価格競争が激しくなり、一帯は激戦区だった頃のにぎわいが消えつつある。

 それでも良質の豚にこだわり続けた今、テレビや交流サイトで再び脚光を浴びて若い客が増えてきた。

 「家族、そしてお客さんのおかげや」。隣で光子さんが笑った。「常連さんに閉めないで、と言われる。もう少し、頑張りたいね」

 年中無休。栄屋TEL06・6411・4038

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