「オニツカイノベーティブファクトリー」の前に立つ(右から)アシックスの富永満之社長、廣田康人会長、平井伸治鳥取県知事、山下智久さんら=鳥取県境港市渡町
「オニツカイノベーティブファクトリー」の前に立つ(右から)アシックスの富永満之社長、廣田康人会長、平井伸治鳥取県知事、山下智久さんら=鳥取県境港市渡町

 近年、過去最高業績の更新が続くアシックス(神戸市中央区)で、ひときわ好調な事業がある。独自のファッションブランド「オニツカタイガー」だ。2025年12月期のブランドの売上高は初めて1千億円を超す見込みで、利益率もアシックスの他の部門のそれを大きく上回る。高い品質とファッション性が国内外で評価されているのが大きいが、快走の要因はそれだけではない。(大盛周平)

■売上高初の1千億円超に

 真冬にしては比較的暖かい天気となった1月15日、記者は鳥取県境港市を訪れた。アシックスが子会社の工場を改装してオープンさせた「オニツカイノベーティブファクトリー」の開所式を取材するためだ。オニツカタイガー初の専用生産拠点で、メディア関係者123人が集まった。海外からも約40人が訪れた。

 式典にはアシックス経営陣のほか、平井伸治・鳥取県知事や伊達憲太郎・境港市長らが出席。歌手で俳優の山下智久さんも参加し、コラボシューズを披露した。

 外観はブランドを象徴する黄色と黒色であしらい、内部にはオニツカの歴史を伝えるギャラリーストアもある。オニツカ事業を率いるカンパニー長の庄田良二・アシックス副社長は、同ファクトリーについて「ブランド価値そのものを生み出す拠点」と位置付けた。

海外デザイナーと協業

 オニツカタイガーは、故鬼塚喜八郎氏が1949年に創業し、翌年に発売した商品にルーツを持つブランドだ。「アジア最強の動物」とする虎にあやかり、バスケットボールシューズに「タイガー印」を付けた。

 ただ、鬼塚氏が経営する「オニツカ株式会社」など3社の合併で77年にアシックスが発足したことで、ブランドは休止状態になった。復刻したのは2002年。後に社長、会長を務める尾山基氏らの尽力により、ファッションブランドとして再出発した。

 03年には米映画「キル・ビル」の主演女優がオニツカタイガーを着用したことで、人気に火が付いた。08年には細部まで日本製にこだわった「NIPPON MADE」(ニッポンメイド)シリーズを発売。海外デザイナーとの協業にも取り組んだ。近年では、フランスの「ジバンシィ」やイタリアの「ヴェルサーチェ」といった欧州の高級ブランドとコラボした商品も発表している。

 商品の価格帯は、シューズの定番モデル「メキシコ66」シリーズで1万5千~3万円台。ラグジュアリー(高級さ)を醸しつつ、「ラグジュアリーブランドほど高くなく、ファストファッションブランドより安くない」という、独自のブランド価値をつくり出した。

 新型コロナウイルス禍後の成長は特に著しく、オニツカの24年12月期の売上高は前期比58%増の954億円。25年は1~9月期(998億円)だけで前期実績を上回り、年間で1200億円に到達する見込みだ。

■EC販売も強化

 オニツカタイガーが飛躍した背景には、販売戦略の大きな転換もあった。

 02年にオニツカを復刻させた当初は、販路の多くはスポーツ用品店や量販店向けの卸売りだった。他社商品と一緒に並ぶためブランドイメージが打ち出しにくく、値引き販売も起きやすかった。

 そこで11年ごろ、卸売りから脱却し、直営店拡大にかじを切った。同年に外資系ブランドからアシックスに転じた庄田氏が指揮を執り、国内やアジア、欧州などの主要都市に出店した。11年は販路のうち直営店の割合は5%だったが、24年は58%に上昇。店舗数はいまや192店を数える。

 また、外資規制などで直営店を出すのが難しい地域では、オニツカのみを扱う店舗を出す企業とパートナー契約を結んだ。電子商取引(EC)サイトでの販売も強化し、自社でブランド管理できる割合は99%にまで達した。

 直営のメリットは、販売価格や展示方法などを自前でコントロールでき、高い利益率を保てる点だ。25年12月期決算で見込むオニツカ事業の利益率は37・5%で、主力のランニングシューズ部門の予想(22・8%)を上回る。

 そして昨年7月には、フランス・パリのシャンゼリゼ通りへの旗艦店出店も実現した。同通りはルイ・ヴィトンが本店を構えるなど世界有数の高級ブランドの集積地。日本企業として初めての出店となった。「旗艦店は、ブランドの現在地を世界に示すメディア」と庄田氏は話す。

■日本企業初の出店

 オニツカタイガーの快進撃はどこまで続くのか。アシックスが今後の戦略で描くのは、欧米での販売強化と大規模店舗の展開だ。そしてそれらを支える人材育成にも余念がない。

 同社は欧州を「グローバルへのブランド発信拠点」と位置付ける。2025年にはスペイン・バルセロナと英国・ロンドン、フランス・パリに新店を出した。昨年7月時点での7店舗を27年までに10店に増やす考えだ。

 米国市場は23年に一度撤退しているが、27年の再進出を見据える。足元のインバウンド(訪日客)向け売上高をみると、米国からの客の購入額は、中華圏の客に次いで多かったという。

 さらに、1500平方メートル規模の大型店の世界展開も計画する。30年までに主要都市で4店舗以上出すことを目指している。

 成長を継続させる体制づくりにも抜かりがない。オニツカはアシックスの一事業でありながら、19年から「カンパニー制」をとる。意思決定などに裁量を与えるとともに、迅速に動けるようにするためだ。

 カンパニーの国内外の従業員は25年6月末時点で331人(店舗従業員を除く)。小規模ながら、カンパニー長を頂点に営業部や人事部を置く。独自で中途採用するなど、人材獲得の自由度が高い。さらに26年春には初めて、独自の新卒採用者が入社する予定だ。

 「オニツカタイガーが目指すのは、単なる売り上げ拡大や一時的な成長ではない。成長を定着させること」と庄田氏。「DISCOVER THE DIFFERENCE(違いを見つけろ)」を社内に掲げ、今後も挑戦を続ける考えだ。