「ヘカベ、海を渡る」の一場面。仮面の上を歩く俳優たち(清流劇場提供、撮影・古都栄二さん)
「ヘカベ、海を渡る」の一場面。仮面の上を歩く俳優たち(清流劇場提供、撮影・古都栄二さん)

 舞台に散らばる顔、顔、顔。目と口を切り抜いて作られた仮面は、さまざまな表情を浮かべているように見える。その上を俳優が歩き回り、物言えぬ戦争犠牲者の存在を観客に伝える。

 3千年以上前にあったとされるトロイア戦争を題材にしたギリシア悲劇で、戦争で子を奪われた母の復讐劇「ヘカベ、海を渡る」の一場面。尼崎の劇団「清流劇場」が昨年、大阪と東京で上演した。劇団代表の田中孝弥(あつや)さん(53)が大阪弁に置き換えた。

 演劇は古くから戦争を主要なテーマとして扱ってきた。それは現代においても変わらない。田中さんは「演劇は私たちの社会の合わせ鏡。ふっと気を抜けば悲惨な社会にまた転びかねないよ、と警鐘を鳴らすことが必要」と力を込める。

 第2次世界大戦の終結から80年。近代演劇は戦中、戦後、この社会とどのように呼応してきたのか。関西の動向を中心にたどってみたい。

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