僕の宝物に、古びた一冊の写真集がある。60年前に出版されたこの写真集は、週刊誌のような体裁で、紙はザラ紙、写真は白黒、値段は100円。写真集のタイトルは「筑豊のこどもたち」。写真家土門拳さんの作品である。この写真集は、映画化を考えていた父親が買ってきて、食卓テーブルの上に置かれていた。表紙には、寂しげに指をくわえる、僕と同じ年頃の女の子が映っている…当時の僕は小学校3年生。
写真集から飛び出してきたその世界に、僕はくぎ付けになった。同じ日本の中で、僕と同じような年頃の子どもが、劣悪な環境で生活し、父親を待っている…。「なぜ? どうして?」。僕の知っている世界とはまるで違う、もう一つの世界が写真集の中にあった。
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