寝たきりとなった母の記憶は、次第に断片的になっていく。思い出話を繰り返す体力もなくなったのか、少し前までは長いストーリーだったのが、今では短いワンシーン程度だ。それでも相手かまわず、そばに誰かが来れば語りだす。
ほとんどが戦前のエピソードで、事の真偽は確かめようもないことばかりだ。最近は、宝塚スターになったり、日舞の名手になったりもする。支離滅裂な話を、看護師、介護士さんたちは優しく受け答えてくれるが、私は生返事もせず黙して聞くことが増えた。
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