身内の話になるが、この3月に98歳の父を見送った。8年前に母を亡くしてからは、岡山県倉敷市の高齢者施設に入居してもらった。コロナ禍で面会がままならなくなるまでは、月1回のペースで帰省した。父の部屋に布団を敷いて1泊、翌日はいっしょに実家に帰って、刺し身と鍋をあいだに酒盛りをするのが恒例になった。話すうちに、父のことを深く知らなかったことに気づかされた。
教育ひとすじの人生で、「教育は天職だった」と言う人だが、葛藤もあったようだ。父が40になる前のことだが、後に人間国宝になられた漆芸家の磯井如真(じょしん)先生に教えを乞い、学校が夏休みの間だけの内弟子にしてもらったそうだ。筋は悪くなかったようで、「僕が教えてないことまで、どうして君はできるんだ」と言われたことを、ほろ酔いの父は自慢した。
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