自分には趣味と言えるものがないことに気がついたのは、広告会社に勤めているときで、40代を目前にしていた。バブル経済がはじけて、100時間をこえる残業が当たり前だったのがウソのように時間ができた。同僚たちはこぞってゴルフを始めたが、運動オンチの自分にはなじめなかった。
趣味を探しているうち、ひょんなことから近所の陶芸教室に通うことになった。挑戦してみた電動ロクロ、それは不思議な体験だった。指先と脳をつなぐ反射神経だけがフル回転して、大脳はしんと静まりかえっている。乏しい脳みそをしぼって広告プランをひねり出している身としては、バケツの横っ腹に穴があいて、ストレスが一気にほとばしり出たような快感があった。
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