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避難所となった体育館の廊下で休む被災者=2016年4月24日、熊本県益城町木山
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避難所となった体育館の廊下で休む被災者=2016年4月24日、熊本県益城町木山

避難所となった体育館の廊下で休む被災者=2016年4月24日、熊本県益城町木山

避難所となった体育館の廊下で休む被災者=2016年4月24日、熊本県益城町木山

 阪神・淡路大震災で「震災関連死」に認定された神戸市兵庫区の末広絵梨奈さん=当時(10)=は、避難先を転々とする中で体調を崩し、地震の約2週間後に命を落とした。重い知的、身体障害で介助が必要だったが、落ち着ける場所はなかった。母親は悔しがる。

 「今なら、福祉避難所が使えたのでしょうね」

 高齢者や障害者ら要支援者が行き場を失った阪神・淡路大震災を教訓に、介助やバリアフリーなどが整った福祉避難所の必要性が指摘され、2007年の能登半島地震で初めて設置された。だが、大災害でうまく機能してきたとは言えない。

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 昨年4月の熊本地震。熊本市は災害時に福祉施設など176カ所を福祉避難所として活用する協定を結んでいたが、実際に開設できたのは82カ所と半分以下にとどまった。

 同市中央区にある定員29人の特別養護老人ホームは、協定では福祉避難所として2人の受け入れを想定。だが地震後は職員の家族に加え、多い時で100人以上の住民が身を寄せた。電気や水道も寸断される中、職員は入所者の世話に精いっぱいで、新たに受け入れる余裕はなかった。

 神戸市も、地域福祉センターやホテル、老人福祉施設など356カ所の活用を見込むが、「熊本と同様、開設できない状況は神戸でも起こり得る」と担当者。現在は市と施設との情報交換や人材支援についてマニュアル作りを進めている段階で、まだ訓練もできていない。

 宝塚市は14カ所の活用を想定し、協定締結時に福祉避難所の説明書を渡した上で、施設側にも行動マニュアルの策定を促す。うち特別養護老人ホーム「宝塚あいわ苑」では、140ページを超えるマニュアルを作成。最大56人の受け入れを目指し、必要な作業を選び出しているほか、13年度から年1回は対象者を受け入れる訓練を地域と共に実施している。

 長尾雅子施設長は「実は福祉避難所の整備は目的ではなく、地域との連携を深める手段だった」と明かす。普段から地域ぐるみで高齢者を見守る「地域包括ケア」を進めるため、住民が熱心に取り組んでいた避難所の課題を一緒に解決しようと、施設側から申し出たという。

 「住民の防災への熱意に後押しされた。結果として、他職種との連携も進んでいる」

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 ただ多くの市町では、想定する福祉避難所を全て開設できたとしても、足りるかどうか分からない。実際に必要な人の数を把握できていないからだ。

 兵庫県の担当者は「要支援者の避難先、避難を助ける人などを決めておく『個別計画』の策定が進めば、必要数も算出できる」と指摘。だが策定は、昨年4月時点で県内全体の要支援者名簿のうち2・5%、約1万1千人分にとどまる。県は全国で初めて、条例改正で市町による自主防災組織などへの名簿提供を促し、計画策定を進める方針を固めた。

 現実を直視しなければ、教訓を踏まえた福祉避難所も、机上の空論に終わる恐れがある。(阿部江利)

2017/1/18
 

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