熊本地震本震の5日後に亡くなった熊本県合志市の宮〓花梨(かりん)ちゃん=当時(4)=は、同市から「震災関連死」と認定された。「でも」と両親は思う。
「地震のせいじゃない。病院、行政の判断の問題だ」
花梨ちゃんが入院していた熊本市民病院(同市東区)は市の防災拠点施設だが、一部は旧耐震基準で造られた建物。震度6弱以上の揺れで倒壊の危険性がある。にもかかわらず、「患者を受け入れる訓練はしていたが、患者を院外に出す事態は想定していなかった」と同病院の田代和久総務課長は明かす。
熊本市は2015年度中にも同病院の新築工事に着手する予定だったが、直前に延期を決めた。東京五輪開催に伴う建設需要の高まりから資材などが高騰。総工費が当初から約6割増しの209億円に膨れ上がることが分かり、病院経営が成り立たなくなると判断したという。
その結果、震度6強の本震で建物に亀裂が入り、電気や水道などは寸断された。倒壊の危険性が出たことから、同病院は入院患者310人のうち110人を退院させ、200人を他病院に転院させた。移動が命取りになる病状だった花梨ちゃんも転院を迫られ、100キロ以上離れた病院で力尽きた。
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人の命を預かる病院で、阪神・淡路大震災の発生直後にも同じ事態が起きていた。
神戸市東灘区の岩本一夫さん(85)の母よしゑさん=当時(85)=は、震災10日後に死亡した。病気で入院していた同市灘区の病院が被災。西区の病院を経て、垂水区の病院に移っていた。「2度の転院がこたえたんだろう」と一夫さん。
同市長田区の松下加代子さん(49)の祖母堀内ミツさん=当時(87)=は、須磨区の病院で被災。避難所の小学校に移され、体育館の冷たい床に毛布1枚で寝かされた。体調を崩して救急搬送され、震災発生から約2週間後に亡くなった。
こうした死は他にもあったとみられる。だが阪神・淡路大震災では、国も自治体も全体状況を把握していない。
教訓が伝わっていないことは、病院の耐震化率に表れている。15年9月時点で全国平均の69・4%に対し、兵庫県内は67・8%だった。耐震診断さえ実施していない病院は80施設に上り、全国でも4番目に多い。
「自己資金が工面できないところが多い」と県医務課。「防災より最新の医療機器などに費用を投入しがちだ」と指摘する専門家もいる。震災を経験した兵庫でも、熊本と同様に耐震化が進まない現状がある。
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神戸新聞社の取材では、熊本地震で関連死と自治体に認定された人のうち少なくとも14人が、病院の被災で転退院や移動を余儀なくされていた。熊本市民病院には、花梨ちゃんの他にも転退院後に死亡した患者がいる。だが、同病院は患者のその後を調査する予定はないという。
(高田康夫、阿部江利)
※〓は「崎」の「大」が「立」
2017/1/14