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(7)中央防災会議(中) 確率論 繰り返すジレンマ
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地震調査研究推進本部によると、阪神・淡路大震災発生直前の30年間確率は0・02~8%とされる
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地震調査研究推進本部によると、阪神・淡路大震災発生直前の30年間確率は0・02~8%とされる

地震調査研究推進本部によると、阪神・淡路大震災発生直前の30年間確率は0・02~8%とされる

地震調査研究推進本部によると、阪神・淡路大震災発生直前の30年間確率は0・02~8%とされる

 不確かな巨大地震は想定に盛り込まない-。2004年2月、中央防災会議の専門調査会で事務局(内閣府)が示した方向性は、学者のジレンマを浮き彫りにしていく。

 津波被害予測の第一人者、東北大教授の今村文彦(50)は会議中、再考を求めて何度か発言していた。

 「正確な規模やメカニズムは分からないが、被害が大きいのは事実なのです」

 事実とは、東日本大震災後、津波規模が似ていると注目を集めた869年の「貞観地震」を指す。古文書に残るだけの“伝承”だったが、東北大を中心に1990年代から実態解明が進められていた。

 仙台平野の内陸部に、津波の堆積物があったことを突き止めていた今村。再来すれば、解明が進む宮城県沖地震、三陸沖地震などを上回る大津波が東北地方を襲うことを指摘した。

 だが、別の委員が「事務局が言うように、きちっと一貫性を持たせることが重要なのでは」と、何らかの線引きをするべきだと訴える。市民には貞観地震の再来に注意を呼び掛けていた今村だったが、それ以上は踏み込まなかった。「方針は自治体の防災施策に反映され、予算にも影響が出る。議論が足りないとは感じたが、折り合いをつけないといけないと思った」

 貞観地震は結局、「留意事項」にとどめられた。

 その葛藤は阪神・淡路大震災前、神戸市の防災計画策定に関わった関西学院大教授の室崎益輝(67)と重なる。想定震度で主張が割れたとき、間の「5強」を提言して場を収めた室崎は、今村の対応を「あの日の私と同じ」と推し量る。

 室崎の消防工学、今村の津波工学-。具体的な防災対策を求めていく研究だけに、行政への配慮に悩みやすい。室崎が阪神・淡路後、「机をたたいてでも想定震度を6に上げるべきだった」とした悔恨は、その16年後、「もっと強く主張しておけばよかった」と漏らす今村の言葉となって繰り返される。

    ◆

 今村と同じテーブルに着いていた東北大名誉教授の地震学者、長谷川昭(66)も疑問を感じていた。

 地震調査研究推進本部(地震本部)は、東北地方の沿岸部全域で大津波が押し寄せる確率を「30年間で20%」と公表していた。決して高い数字ではないが、十分に警鐘を鳴らしたつもりだった。

 同本部の委員でもある長谷川は「結局、繰り返し性が重視され、あやふやなものはいらない、と判断したのだろう。地震本部は信用されていなかったんですよ」。複雑な思いを駆け巡らせながら、想定の線引きは事務局に譲った。

 自然現象を相手にする地震学には、限界がつきまとう。発生確率は過去の統計から導くため、記録がそろっていなければ低くなり、阪神・淡路の発生直前を今の技術で計算しても30年間確率は0・02~8%でしかない。

 確率をはじく側の長谷川でさえ、「地震のメカニズムは格段に解明が進んだが、発生時期を特定するとなると現状でも難しい」と打ち明ける。

 1970年代後半以降、「明日起きてもおかしくない」と言われてきた東海地震対策として、静岡県がこれまでに投じた費用は国庫補助も合わせて約2兆円。静岡県危機報道監の岩田孝仁(57)は「いつか起こるかもしれない、という程度の確率では踏み切れなかった」と言い切る。

 だが、東海地震は今も起きておらず、阪神・淡路以降、04年の新潟県中越、09年の岩手・宮城内陸、そして東日本大震災と、警告を発し切れなかった地震が相次いでいる。(敬称略)

2012/1/21
 

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