神戸新聞NEXT

 石破茂首相の退陣表明に伴う自民党総裁選がきのう告示され、5人が立候補を届け出た。派閥の裏金問題で失墜した党への信頼を回復し、内外の諸課題にどう臨むのか。投開票の来月4日まで続く論戦では、参院選総括で掲げた「解党的出直し」の内実と実行力が問われる。

 衆参両院で少数与党となる中、野党との連携の在り方、物価高に対応する経済対策、人口減少や少子高齢化と地方活性化など暮らしを守る具体策などが争点となる。各候補は政策論争に徹し、それぞれの主張の妥当性や実現可能性などを国民の前で明らかにしてもらいたい。

 立候補者は小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保相、小泉進次郎農相(届け出順)。昨年9月の前回総裁選で石破首相に敗れた顔触れで、刷新感は乏しい。

 「政治とカネ」の問題に本気で取り組むことが、党再生への第一歩となる。石破政権は裏金づくりの全容解明を進めず、企業・団体献金の見直しにも後ろ向きだった。政治不信を払拭できず国政選挙で連敗し、少数与党に転落したことを忘れてはならない。各候補は政治資金の透明化などを掲げるが、抜本改革への具体策を提示し、さらに踏み込んだ議論が欠かせない。

 参院選後の政治空白は約2カ月に及び、総裁選でなお続く。現金給付やガソリン暫定税率廃止など物価高対策に関する議論は停滞している。新総裁が首相指名選挙やその先の政策実現を目指すには、野党とどう協力関係を築くかが焦点となる。

 石破政権は予算案や政策ごとに野党に協力を求める「部分連合」を進めてきたが、継続するのか、連立の枠組み拡大に踏み切るのか。日本維新の会や国民民主党を名指しして枠組み拡大に前向きな主張や、政策の一致を優先する考え方など、各候補の姿勢には濃淡がある。

 数合わせのための連立拡大は一層の政治不信を招きかねない。政権運営を安定させるには、野党が実現を求める政策にどう対処するのか、財源を含めた道筋を明確にしなければならない。目先の物価高対策にとどまらず、社会保障や財政の持続可能性、成長戦略、原発・エネルギー、外交・安全保障など中長期的な視点での議論も深めるべきだ。

 昨年の総裁選は選択的夫婦別姓が争点になったが、今回は賛否を曖昧にする候補もみられ、議論を避ける動きが目立つ。岩盤保守層へのアピールとして分断や排外主義を助長する言動も懸念される。社会の長期的な安定に必要なビジョンを示し、丁寧な合意形成を図れるのか。その力量を見極める機会としたい。