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青山さんの田んぼに降りて餌をついばむコウノトリを描いた絵本の一場面=豊岡市日高町万劫
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青山さんの田んぼに降りて餌をついばむコウノトリを描いた絵本の一場面=豊岡市日高町万劫
豆腐店「蘇武の里」。絵本とともに、表紙を拡大した看板を店内に置いている=豊岡市日高町万劫
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豆腐店「蘇武の里」。絵本とともに、表紙を拡大した看板を店内に置いている=豊岡市日高町万劫
絵本を読む青山直也さん(右)と川田恵美子さん=豊岡市日高町万劫
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絵本を読む青山直也さん(右)と川田恵美子さん=豊岡市日高町万劫
絵本のように、青山さんの田んぼに降り立つコウノトリ=豊岡市日高町万劫
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絵本のように、青山さんの田んぼに降り立つコウノトリ=豊岡市日高町万劫
有志住民らが設置した人工巣塔(撮影・小林良多)
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有志住民らが設置した人工巣塔(撮影・小林良多)

 2011年、青山直也さん(47)=兵庫県豊岡市=の田んぼに1羽のコウノトリが降り立った。16年、ここで生産した「コウノトリ育む農法」による無農薬米が、米の品評会で金賞に輝いたのだ。翌年、田んぼの目の前にある豆腐店「蘇武(そぶ)の里」(同町万劫)の川田恵美子さん(73)は、日本一の米を来店者に知ってもらおうと、このコウノトリをテーマにした絵本を自費出版した。タイトルは「おとうさんのたんぼは しあわせいっぱい」。題字と表紙の挿絵を青山さんの娘莉々(りり)さん(17)が担当した。(丸山桃奈)

 青山さんは09年、父の他界を機に農業を継いだ。年間の作業計画や肥料管理などを書き残した父のファイルが教科書になった。11年に、神鍋高原の田んぼ1枚で減農薬米を試験的に作っていたところ、1羽のコウノトリが降りてきた。

 その姿に、農薬を使わない稲作へのスイッチが入った。「ここはコウノトリがすむまち。農薬は使わず、安心安全な米を作ろう」

 その5年後、コウノトリ育む農法による自らの無農薬米が「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」の国際総合部門で金賞に選ばれた。国内外から出品された約5700点の頂点に立ったのである。積雪がある神鍋高原は、冬に水を張る必要がある同農法はあまり向いていないとされてきたが、受賞後に同農法を採用する仲間が増えていった。

     ◇

 蘇武の里は06年に開店した。豆腐を使った総菜なども提供していたが、青山さんから「地元の人に金賞に輝いた無農薬米を食べてもらいたい」との提案もあり、総菜とともに店内に並べるようになった。

 絵本は川田さんが開店10周年を記念して企画。表紙の絵とタイトルの文字は、莉々さんが幼稚園児の時に手がけたもの。「絵本にぴったり」だった。親戚らと制作して約800部を発行。来店した人たちに配った。

 物語の舞台は、コウノトリが飛び交い、水がおいしく、冬にはたくさんの雪が降る山里。主人公は小学1年生のななちゃんと妹のほのかちゃん。祖父母は田んぼに囲まれた小さな豆腐店を営む。主人公の2人が店の外で遊んでいると、いつものようにコウノトリが飛んできた。だが、きょうは少し様子が違う。

 ばあば、早く来て。コウノトリさんが、青山のおじちゃんの田んぼに降りたよ

 いつもは空を舞うばかりのコウノトリがある時、田んぼに翼を休めにきた。その次の日も、青山さんの田んぼに降りては、何かをおいしそうに食べていた。

 やっぱり、青山のおじちゃんのお米がおいしいのを、コウノトリさんがわかったんだね

 青山さんのお米は「日本で一番おいしいお米」に選ばれた。

 青山さんの栄冠に、米作りの仲間は増えていった。きょうは山里でオープンガーデン。みんなが作ったおにぎりが並ぶ。そこに青山さんの娘りりちゃんもやってきて、みんなを呼ぶ。

 ほら、コウノトリさんがお友だちを連れてきたよ

 みんなが笑顔になった。りりちゃんが言った。

 おとうさんのたんぼは、しあわせいっぱい

     ◇

 発行から6年。現在、店に残るのは2冊となった。誰でも見られるよう本棚に並べる。大きく拡大した表紙も店内に飾ってある。

 川田さんは「日本一の米をお客さんたちに伝えたかった」と振り返る。青山さんは「絵本になった時は娘も喜んでいた。ずっと大切にしてくれていてありがたい」と笑みを見せた。

     □     □

■住民らが人工巣塔を設置 「育む農法」始めた田んぼのそば

 続編のような物語が今年3月、動き出した。青山さんの田んぼのすぐそばの電柱に、2羽が巣作りを始めた。感電を防ぐため、巣が撤去されても何度も電柱で営巣を繰り返した。「安全なところに移動させよう」。ヒナ誕生に思いをはせ、地元の有志住民らで4月に人工巣塔を設置した。

 この巣塔に営巣すれば、絵に描いたような美しい物語だが、シナリオ通りに事が運ぶほど自然界は甘くない。巣塔にコウノトリが降り立つシーンは目撃されたが、営巣はしなかった。

 それでも、1羽の飛来に始まり、現在では繁殖が期待されるまでになった。青山さんは「電柱での営巣とはいえ、ようやく12年たって巣を作ってくれた。毎日トラクターに乗りながら見ていた。いつか建てた巣塔で繁殖してくれたら」と期待する。

 神鍋高原でのコウノトリ物語の結末はいかに-。

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