改修した空き工場に並ぶアンティーク商品と小畦雅史さん=神戸市長田区長田天神町5
改修した空き工場に並ぶアンティーク商品と小畦雅史さん=神戸市長田区長田天神町5

 10年近く放置されていた元自動車整備工場が、DIY工房とレトロ商品の販売店に変身-。神戸市長田区長田天神町5にある「天神町Stock&Store(ストックアンドストア)」。元々の外観はそのままに改装し、空き工場は人の集まる場所に生まれ変わった。(長沢伸一)

 白とブルーグレーのトタンに覆われた鉄骨平屋。古びた木の扉を開けると、江戸時代の木箱やアンティークなカップがそろう。

 50年前に完成し、40年間自動車整備工場だった建物を1級建築士の小畦(こあぜ)雅史さん(48)がリノベーションした。

 古い物が好きという小畦さん。2015年に同市須磨区で設計事務所を始め、建物のリノベーションが仕事の中心。手がけた物件は約90件になる。

 空き工場と出合ったのは2年前。阪神・淡路大震災で壁が壊れた同市垂水区塩屋町の空き家を人気物件に復活させると、所有する賃貸管理会社から「ここ何かに使う?」と元自動車整備工場を紹介された。

 屋根には穴が開き、壁のトタンはさびたまま。放置されていた期間が長かったからか、多数のネコがすみついていた。「まず広かった。駅からもそれほど離れていない。リノベに取り組む仲間が集える多目的工場にしたい」。自分が借りる決断をした。

 昨年1月から3カ月かけて工事をした。外装はほとんどいじらなかった。50年前の姿に戻すように、さびきったトタンを塗装した程度だ。「大きく変わると周囲の人も驚く。きれいにするだけで、外観のイメージを生かすことを意識した」

 一方、内装はコンクリートの床に古い木材を敷き詰めた。「人の痕跡を感じる古材を使うと、木が歩んできた物語と交錯する。そう考えるとわくわくしませんか」と笑う。古びた湯飲みを風鈴にしたり、サラダボウルをランプに変えたりと細部にこだわり、昨年7月、店と工房をオープンした。

 店に並ぶ約800点のアンティーク品は、過去に手がけた物件から捨てられそうになっていた物を「レスキュー」して集めた。

 古い引き戸は2、3代と続いた屋敷にあった。解体前、高齢夫婦から「先祖や自分の記憶がなくなってしまう。救い出して」と依頼を受けた。

 医者の家からは薬のびんを、農家からは唐箕(とうみ)を引き取った。「家具一つ、板一枚にも家庭の思い出が詰まっている。施主から話を聞くと愛着がわいてくる。物と一緒に物語を受け取っている」と話す。

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 23年の「住宅・土地統計調査」によると、同市長田区の空き家は1万300戸。一方、神戸市の空き家活用に関する補助金交付が22~24年度に区内で35件あり、再活用が進む。「日本ではまだ市民権を得ていないが、海外でリノベ物件は当たり前」と小畦さん。「生まれ変わったこの場所で、リノベの魅力を発信したい」と力を込めた。

 夏場は休業しており、10月から営業を再開する。営業日は「天神町Stock&Store」のインスタグラムで告知する。