尼崎に伝わる「とまついっすんまめ」。行基上人が残した宝を、今も大切に育て、食する人たちがいる。一寸の豆にも、アマの魂。この愛着は「ちょっと」どころではない。(2017年7月の連載から=年齢、肩書きは当時のまま)
動画もあります。
■一寸の豆 地産地消、ずっと愛され
一寸。「いっすん」とも「ちょっと」とも読む。尼崎の伝統野菜「富松(とまつ)一寸豆」は「いっすんまめ」だが、実は誤読にも一定の知名度がある。
1990年代中ごろ、尼崎市役所であった一寸豆のPR会見。ある記者が真面目な顔で質問した。
「この『ちょっと豆』ですが…」
出席していた富松神社宮司の善見壽男(よしみひさお)さん(68)が取り繕う。「少ししか採れないし、『ちょっと豆』がふさわしいかもしれませんね」。笑い話はすぐに広がり、「富松ちょっと会」という地域団体までできた。
収穫量も生産者もちょっとだけ。20年ほどたった今も、一寸豆を取り巻く状況は変わっていない。むしろ、少しずつ減っている。
一寸先は闇という。その将来を安易には描けないが、地元の愛着の深さは、ちょっとどころではない。
一寸の豆にも、アマの魂。
■「インドのお坊さんが伝えた」
一寸。いっすん。3・03センチメートル。さやに入った粒の長さから、「富松(とまつ)一寸豆」は名付けられた。いわゆるソラマメよりも一回り大きい。
「うわー、でっけー」「持ってみ、ずっしりやで」
5月15日、尼崎市富松町の畑に収穫体験に訪れた尼崎北小学校の4年生148人が驚きの声を上げた。はしゃぐ子どもたちに、「富松豆保存研究会」事務局長の肩書も持つ善見壽男(よしみひさお)さん(68)がルーツを紹介する。「インドのえらいお坊さんが伝えた豆なんやで」
地元では、富松一寸豆が日本のソラマメの起源と伝わる。奈良時代の736(天平8)年、来日した菩提仙那(ぼだいせんな)が持参した豆を行基(ぎょうき)上人が受け取り、今の尼崎市で試作させた。行基といえば、同市のほか、「行基町」の地名が残る伊丹市など近畿各地で開墾指導などに携わったとされる。
想像力をかき立てる「はじまりのアマ」の言い伝え。その後、千年以上にわたり記録は途絶えるが、一帯の農家が米の裏作として栽培を続けたと解釈されている。
収穫体験には、近くに住む保存研究会の一員、高尾元三(もとぞう)さん(65)も来ていた。不動産の管理で生計を立てる傍ら、専業農家だった父から継いだ畑で一寸豆を育て続ける。
苗で500ほどという栽培量は、10軒足らずとなった生産農家の中でも多い方だが、家族で食べ、親しい人に配るとなくなってしまう。宅地開発で田畑が減少し、農家が先細るという高度成長期以降の全国的な傾向は一寸豆にも当てはまり、店頭に並ぶことはない。
そんな現状を、かつて農作物を扱う商社に勤めていた高尾さんは冷静に受け止める。「流通ルートに乗せて変に踊らされるよりは、地元で育てて地元で食べる昔ながらのサイクルを続けた方がいい」
■弱火で9時間、輝く福煮
ちょっとしか採れない一寸豆だが、ふっくらとした食感を生かしたメニューは多彩だ。塩ゆで、バターいため、かき揚げ、そして「福煮」。高尾さんの家では、妻の久子さん(62)が代々の味を引き継ぐ。
使うのは、乾燥させて茶色くなった一寸豆。重曹と砂糖、しょうゆを加えて弱火で煮る。9時間後、より柔らかく、より甘くなった黒く輝く豆が姿を現す。
伝統野菜を象徴するこの伝統料理は、収穫体験の2日前の5月13日、神前に供えられた。26回目を数え、地元に定着した富松神社の「一寸豆祭」。豆が販売される唯一の機会でもあり、大勢の家族連れやお年寄りが列を作る。
「知名度も大切だが、地域の幅広い世代に愛され、コミュニティーを保つ存在に」。普及に取り組んできた保存研究会のメンバーは願う。善見さんが、笑いながらあるエピソードを挙げた。「ふざけて『ちょっと豆』と言うと、怒りだすぐらい誇りを持っている人もいるんですよ」
■「有馬山椒」の復活目指し
「武庫一寸」「河内一寸」「陵西(りょうさい)一寸」。明治期以降を中心に、富松一寸豆はいくつもの系統に派生し、全国に広がった。その伝播(でんぱ)の歴史に、新たな一ページが刻まれるかもしれない動きがある。
仕掛け人は、有馬温泉観光協会の会長、金井啓修(ひろのぶ)さん(62)。有馬周辺に自生し、かつてさまざまな料理に使われた「有馬山椒(さんしょう)」の復活を目指している。
その過程で、各地の在来作物を調べていたところ、富松一寸豆がアンテナに引っ掛かった。尼崎の農地を開き、豆の栽培を持ち込んだとされる行基は、衰えていた有馬温泉にお堂を建てて復興させた話が残る。
昨秋、富松でもらい受けた25粒ほどの一寸豆を、神戸市北区の畑に植えた。「別の地域では育たない」とも言われていたが、冬の寒さをわらの囲いでしのぐなど気を配り、この春には多くがさやを付けた。
味はどうなのか、収穫した豆が再び芽を出すのか。“有馬一寸”の本格栽培に向けた課題は多いが、金井さんは壮大な夢を描く。「行基ゆかりの二つの土地が、現代になって一つの伝統的な作物で結ばれる。有馬の温泉旅館で一寸豆の料理が提供できたらすてきでしょう」
ちょっとしたきっかけが、新たな展開につながった富松一寸豆。尼崎では地に根を生やし、有馬では天を仰ぎ見て。物語は、紡がれていく。
■〈有馬山椒〉
有馬温泉周辺に自生し、多彩な料理に用いられた。サンショウを使った料理が「有馬煮」と呼ばれるなど定着したが、ライフスタイルの変化などにより1960年代に流通ルートから姿を消す。2009年、復活を目指す地元の観光関係者が有馬の山中で野生のサンショウを採取し、接ぎ木により栽培を拡大。地域固有の伝統食を守る国際的な制度「アルカ」にも登録された。
※伝統料理「福煮」づくりや収穫の動画はこちら
(https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/shingokoku/P20170927MS00170.shtml)

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