兵庫県芦屋市の大泉淳さん(54)は、阪神・淡路大震災で父の清さん=当時(63)=を亡くした。もし父が生きていたらどんな話がしたいか、伝えたいことはあるだろうか-。思いを巡らせても、これといって思い浮かばない。「コロナに気を付けながら、元気にやってるよ、っていうくらいですかね」
木造2階建ての一軒家に、両親と兄と妹の5人で暮らしていた。築60年超。「もし地震が起きたらつぶれてまうな」。そんなふうに家族で冗談めかしていた。
「まさか、本当に地震が起こるなんて誰も思いませんでした」
淳さんが2階の自室の2段ベッドで寝ていると、激しく揺れて目が覚めた。天井が目の前に迫っている。脚で押し返そうとしても、重すぎて体がつぶれそうだ。揺れが収まったと思うと、天井が割れて、空が見えた。
◇ ◇
どうやって抜け出したかは覚えていないが、屋根に出ることができた。父の寝室は、淳さんの部屋の真下だった。
近所の友人に手伝ってもらい2階の床をめくると、清さんの顔が見えた。目をつむり、寝ているようにも見えた。ただ、顔以外はピアノの下敷きになっていて、もう助からないということはすぐに察した。
そばにいるのが当たり前すぎて、父と交わした言葉も、一緒に遊んだ思い出も、聞かれてもぱっと答えられない。「印象といえば、真面目で口数の少ない、勤勉な人だったということくらいで…」
ただ、一つだけ鮮明に覚えている。社会人になったばかりの頃。深酒をしてしまって朝寝坊をし、バタバタと出勤の支度をしていると、落ち着いた口調で父から言われた。
「勤め人としての自覚が足りない」
物流センターで荷物の梱包や出荷作業をしながら、淳さんはときどき父のその言葉を思い出し、背筋が伸びる気がする。
◇ ◇
「社会人になったし、一緒に飲みにいきたいな」とは思いつつも、改まって誘うのはどこか小っ恥ずかしくて、後回しにしてきた。最後に出掛けた記憶は、亡くなる5年ほど前に墓参りをしたくらい。訃報を聞き、マージャン仲間が自宅を訪ねてきて驚いた。「まさかマージャンが好きで、そんな友だちもいたとは…」
一緒に暮らしていた頃よりも、亡くなってからの方が父のことを考える。父はどんな人だったのか、どんな思いで自分たちを育ててくれたのか。もう、何も聞くことはできないし、乾杯をすることはできない。何より、父のことをあまり知らないことに気が付いた。
だからといって、後悔しているわけではないが、「せめて自分にできることを」と、毎年1月17日は早朝から追悼行事へ足を運ぶ。そして、芦屋公園に置かれた芳名帳に、きっちりと名前を書き記す。
「参加する人が少ないと、追悼の場がなくなってしまうかもしれないので」
もう寝坊することはないけれど、この日の朝は、特にすっきりと目が覚める。(大田将之)
【特集ページ】阪神・淡路大震災

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