高原奈穂さん
高原奈穂さん

 16日と10時間30分23秒。私がヨットレースで大西洋横断をするのにかかった時間です。

 私が出場したミニトランザットという大会は全長6・5メートルのヨットを1人で操り、大西洋を東から西へ横断するコースを走る外洋ヨットレースです。昨年9月から開催された大会に出場し、日本人女性初、日本人最年少で、このレースを完走することができました。

 昨年の大会には予選を通過した約90人の選手が参加しました。フランスをスタートし、カナリア諸島でのストップオーバー(寄港)を経て、カリブ海のグアドループがフィニッシュ地です。

 ヨットにエンジンはなく、風だけが推進力になります。トイレ、シャワーはバケツ。通信は禁止され、スマホも持ち込めません。夜の真っ暗な海では月明かりと小さなヘッドライトが頼り。緊急事態以外では船を止めることはなく、30分ほどの仮眠を小刻みに繰り返し、24時間レースを続けます。

 見渡す限りの水平線、南下するごとに強まる貿易風、地球を感じながら帆走させる数週間。整備されたトラック上ではなく、圧倒的なパワーを持つ自然の中で競技をしていると、人間がいかにちっぽけな存在かを痛感せざるを得ません。同時に、先人が世界地図もなかった時代に大陸間をつなげる航海を成し遂げたことを考えると、好奇心や想像力などの、いまだ不思議だらけの人間の特徴が、今の不可能を可能にし得るのだと、怖さ交じりの感動を覚えます。

 私の人生にも地図がなく、好奇心や想像力の赴くまま“心の風まかせ”で進んできました。4年半ほど前、0泊17日の過酷な外洋ヨットレースの存在が好奇心をくすぐり、私の人生を大きく前向きに変えることとなったのです。

【たかはら・なほ】1999年神戸市生まれ。外洋ヨットレース選手。慶応大でクルージングクラブ主将。卒業後は大手銀行に勤務しながら国内外のレースで入賞。現在は霞ヶ関キャピタル所属。