「提言をまとめるだけでは災害被害は軽減しない。その意味で、従来の学者や行政の専門家はこの十年間、何も役割を果たしていないのではないか。ネットワークというなら、新しいエキスパートを発掘することが大事だ」
昨年十二月、東京で開催された国連の「国際防災の10年」を記念するシンポジウム。パネリストの一人、片山恒雄・防災科学技術研究所長が発言を求めた。
後半のパネルディスカッションで、各国の防災専門家のネットワークづくりに論議が及んだ時だった。
片山所長は、新しい専門家の条件の一つとして「コーディネーション」を挙げ、「市民の中にこそ、埋もれている」と結んだ。
災害時に被災者のニーズと支援を結びつけ、混乱沈静化の一翼を担う。震災後、注目されたコーディネーターの役割の一端だ。
京都大防災研究所の林春男教授は、これを「編む技術」と表現する。
「ボランティアは一人ひとり、でこぼこしているが、編み束ねることで、一定の戦力を被災地に供給できる。これは、防災の専門家だからといって、できるものではない」
林教授は、各地の防災計画策定などにかかわる一方、ボランティアや市民レベルの集まりにも足を運び、独自のネットワークを持つ。
「防災の主題は被害の抑止から、その軽減に移っている。それとともに、担い手は専門家から市民に交代しつつある」と持論を展開。一市民の立場から防災へのアプローチを図る。
被災地に目を転じてみる。震災直後だけでなく、まちや住まいの再建の場面でも、コーディネーターが求められた。
例えば、自宅の共同再建では、地権者の利害の調整が一つのカギとなる。意向をまとめて、建築家や業者、行政と交渉を重ね、一人ひとりの願望をプランに、実現に、と運んでいく。
神戸・長田に本拠を置く「まち・コミュニケーション」の小野幸一郎代表はこの五年間、ボランティアとして調整役を務めてきた。地域のまちづくりの事務局機能も積極的に担う。が、建築や都市計画の専門家ではない。震災前は東京の印刷所で働いていた。
「専門性より、地域とのかかわり方が大事。何気ない日常に地域の抱える問題がある。その解決には、住民だけでなく『かすがい』となる第三者が必要だ」
東京・墨田区。下町活性化という難題に取り組むコーディネーターがいる。
コミュニティー・ビジネス「すみだリバーサイドネット」社長の竹村行正さんだ。本業は居酒屋。同ネットでは、地域の主婦にパソコンを教え、企業や行政からホームページの制作、プロバイダー業務を受注する。
「母親は家庭や地域の中心世代であり、情報や消費の中心でもある。この潜在力は貴重な資源だ。さまざまな機会を与えて、どんどん引き出したい」。収入は小遣い程度だが、地域で買い物をしてもらうことで、お金の循環の一助とする。
コンセプトは「協創」。力を合わせ、新たな価値を創(つく)る思いを込めた。それは「競争」の対局にある。
地域の人が結べば、防災力も増す。「編む技術」が注目される。
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震災では、さまざまな分野の専門家が被災地に入り、活動や発言を繰り広げた。九六年九月に設立された「阪神・淡路まちづくり機構」では、弁護士、税理士、建築家らが集い、共同で被災地の問題解決に当たった。二月、東京でシンポを開き、平時からの組織づくりを提唱する。七日の神戸市の復興検証シンポジウムで、室崎益輝神戸大教授は、専門家が市民と組み、市民を育てていくという意識の必要性を訴えた。
2000/1/10