地球温暖化防止に取り組む各地の環境NGOが昨年十二月、京都に集まった。集会の中で、「気候ネットワーク」代表の浅岡美恵さんが発言した。
「日本ではまだ、市民という存在が姿を見せていない。市民の存在感がある社会にしなければならない」
一九九七年の地球温暖化防止京都会議(COP3)を機に生まれた「気候ネットワーク」。国策である原子炉二十基の新設に異を唱え、自然エネルギー普及と大量消費からの転換で、温暖化ガス排出の削減目標を達成できると主張する。
京都会議で世界のNGOと連携して力をつけ、活動の舞台は政治の場・東京に広がった。自然エネルギー普及の市民立法案を目指し、昨年十一月、橋本竜太郎前首相や土井たか子社民党党首ら、百八十人が呼びかけ人となって発足した超党派の自然エネルギー促進議員連盟を支援する。
「市民運動はもっと政治にかかわるべきだ」と浅岡さん。国、社会を動かす市民に、と訴える。
その一つの例が、北海道にある。風力の「市民共同発電所」計画だ。進めているのは、NPO「北海道グリーンファンド」。会員から、月々の電気料金に五%を上乗せして支払うグリーン電気料金を建設資金として集めている。
まだ約八百世帯だが、一万四千世帯が集まれば年五百・千キロワットの発電所が建設できる。北海道電力に売電し、次の建設基金にする。同ファンド事務局長の鈴木亨さんは「従来型の原発反対運動ではなく、二十一世紀のエネルギー政策を市民が考える取り組みにしたい」という。北海道電力とは原発で対立する側面もあるが、この活動では協力関係にある。
その先進国・デンマークから、ケンジ・ステファン・スズキさんが京都の集いに出席し、講演した。市民所有の発電所が既に国内電力の一割を供給し、さらに増える動きにあることを紹介した。「国民は採算がとれるから風力に投資する。日本でも同じことは可能だ」と訴えた。
被災地では、学校など公共施設に防災を兼ねて太陽光発電が採用された。電力事業法改正で個人の売電が可能になり、住宅用太陽電池を設置した個人住宅が増えた。設置すると、国から補助金が交付される。補助金交付からみた全国の普及度は、九七年で一位が、飯田市などに独自の融資あっせん制度を持つ長野県。兵庫県は三位。新エネルギー財団は「震災で兵庫県はエネルギー自給への関心が増したのではないか」とみる。
「一〇%くらいなら電気料金に上乗せしてもいい」。兵庫県は、地球温暖化防止の各会場で、グリーン料金制度について参加者の声を聞き、手ごたえを得た。真継博・県環境局大気課長は「制度は選択肢の一つ。淡路や豊岡では太陽電池が生産されている。県民と勉強しながら、太陽エネルギーでは兵庫、といわれるようにしたい」と話した。
経済評論家の内橋克人氏は、市民所有の発電所のような「市民資本」の構築が不可欠という。「それなしには、本来の市民社会は実現しない。持続可能なまちとは、エネルギー、食料、ケア(介護)の三つが自給できる社会を指す」と説く。
地球規模で考え、地域で行動する。温暖化問題はその好例だ。大量消費から持続可能な生活スタイルへの転換は、市民がそれを選択するかどうかにかかる。
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震災でライフラインが途絶し、水や食料が欠乏したとき、私たちは現代の都市生活がいかにもろいかを知った。生命を守るために必要なエネルギーや食料、水の問題についても、市民が選択できることが安心につながる。次の世代が直面する地球規模での環境リスク解決への道も、そこにある。
2000/1/11