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(3)町づくりが育成のかぎ 住民の防災組織が次々できた
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 「防災福祉コミュニティー」。震災以降、神戸市が各地域で導入する自主防災グループだ。初期消火、救助活動には日々の地域のつながりが欠かせない。震災を教訓に、住民がコミュニティー意識を深め、率先して防災に当たるという組織である。長田区南部の真陽地区を訪ねると、教訓はしっかりと生きていた。

 地区防災福祉コミュニティー本部長の正賀伸さん(67)に会った。「五、六階建てでも届きますよ。訓練は十分積んでますから」。二年前、神戸市から貸与されたという動力ポンプを前に、災害への備えと住民の団結力を話してくれた。

 震災は、古い住宅が並ぶこの町を壊滅させた。住民四千人余のうち、避難者はピーク時で三千五百人に達した。真陽地区は、以前から地域活動に定評がある。対応は早く、一週間後には配食、救援物資管理、警備などの班を自主組織。避難所も、ボランティアの支援を受けながら、自ら運営に当たった。強いつながりが、防災意識にも生きる。

 「商・工・住混在の、ごちゃまぜの町だからできるんです」と正賀さん。互いをカバーする環境が、町に備わっているという。町の安全を支える責任感が、言葉の端々ににじんでいた。

 

 震災の日、神戸市内だけで百九件の火災が発生。数千人が倒壊家屋の下敷きになった。消防や警察が対応できる限界をはるかに超えた。それを教訓に、神戸市消防局は衛星通信画像システムや、百八十基もの耐震性防火水槽の整備などで体制を強化した。といっても、消火できるのは計算上、同時出火で五件が限度。大規模災害時は「消火は消防、救助は住民」との基本線を引き、「住民の助け合いが直後の被害を左右する」とする。

 防災福祉コミュニティーは、日常は地域福祉活動をしながら、防災体制を整えていく。神戸市内ですでに九十一団体が結成され、組織率は今年四月で六六・八%。全国的にも高い。

 

 だが、二十五日に組織を発足させる須磨区の多井畑地区をのぞくと、少し難しさを感じた。

 結束が強く、組織を引っ張る旧集落の多井畑と、新興団地の多井畑東、南町で結成する。新旧の世帯数はそれぞれ四百前後だが、発足前の役員会に出席したのは、一人を除いてすべて旧集落からだった。

 新興団地の一人は、東町自治会長の中村登さん(43)。神戸市教員で、震災時は避難所運営や避難者の世話に奔走した。経験から活動の必要性は身にしみて分かるが、ニュータウンでは、日々の活動への参加は難しい。行政が、かつての地域共同体のように期待する形には、なりようのない現実を思う。

 真陽地区ですら「少子・高齢化で二十年後の姿は想像できない」と漏らす。

 

 となれば、この住民組織は将来、消えていくのか。

 三木市にある理化学研究所地震防災フロンティア研究センターで、地域防災に携わる牧紀男さんは「育てていくには、まちづくりとリンクさせることが必要だ」と提言する。

 住宅街だけではコミュニティーは育ちにくい。商店があり、高齢者もいれば、子どももいる。真陽地区のように、ごちゃまぜの町が災害にも強くなる。

 まちづくりのあり方が防災面でも問われるが、現実の社会を考えると、それも容易ではない。

1999/9/20
 

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